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   野球少年の郷(ふるさと)・墨谷―『キャプテン』『プレイボール』の秘密―


                       安威川敏樹


  はじめに


 僕が小学三年生のころ、風邪をひいて寝込んだことがあった。
 母親が、これから出かけるけどなにか欲しいものはないか、と聞いてきたので、野球マンガが読みたい、と答えた。
 小学校二年生までは野球には全く興味が無かったのだが、三年生のとき引っ越して周りにも影響されたのか、僕は野球の虜になった。生まれた場所も、引っ越し先も大阪だったので阪神ファンになるのには時間はかからなかった。当時の阪神は田淵幸一が押しも押されもせぬ四番打者で、掛布雅之が若トラと呼ばれていて初めて三割をマークした。巨人の監督は第一期長嶋政権、王貞治は四番打者で、その年にベーブ・ルースのホームラン記録を破った。その巨人を日本シリーズで破ったのがパ・リーグの勇者・阪急ブレーブス(現・オリックスバファローズ)だった。
 ベッドで寝ていると母親が帰ってきて、マンガの本を一冊渡してくれた。
 表紙には『キャプテン』と書かれていた。
 聞いたこともないタイトルだった。当時の野球マンガといえばアニメ化されていた『ドカベン(水島新司・作)』が圧倒的な人気を誇っていた。なぜ僕が、『ドカベン』を買ってきて、と頼まなかったのかは憶えていない。野球を好きになったばかりなので、まだ『ドカベン』のことを知らなかったのかもしれない。なにしろそのころ、僕が読んだことがある野球マンガといえば『小学三年生(小学館)』に連載されていた『アリンコ球団(吉森みき男・作)』だけだったのだから。
 もちろん母親が『キャプテン』を知っているはずもなく、野球マンガはありませんか、と本屋の主人に尋ねたところ、『キャプテン』を勧められたそうである。なぜ本屋の主人が『キャプテン』を勧めたのかはわからない。
 それ以来、僕は『キャプテン』にのめり込んでいった。
 
 あれから三〇年、平成の世となった今も、故・ちばあきお先生が残した傑作『キャプテン』と、その兄弟作『プレイボール』は未だに根強い人気がある。コンビニ用にリメイクされ、『プレイボール』はアニメ化された(『キャプテン』は一九八〇年にアニメ化)。
 三〇年経っても衰えない人気の秘密はなにか。我々オジサン世代が懐古趣味で見ているのか、それとも今の少年にとってみればかえって「新しいもの」に映るのか、それは僕にもわからない。
 ただ、世代を超えても魅力のある作品であることには間違いないようだ。
 
 さあ、三〇年前にタイムトリップしよう。バットとグラブを持って。
 野球少年のふるさと、墨谷へようこそ。
 
注一…本文中のシーンを示す巻とページは全て当時のジャンプ・コミックス(集英社)によるものです。キ=キャプテン、プ=プレイボール(例)キ三巻二五頁=キャプテン三巻二五ページ
注二…「☆戦績」の「全国大会」は「選手権大会」、「秋季予選」は「秋季ブロック予選」、「秋季大会」は「秋季東京大会」を指します。

 

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