トップ野球少年の郷第4回
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第一章 墨谷第二中学校 谷口キャプテン編−3

〈検証〉墨谷二中のキャプテン制度

 墨谷二中野球部には監督がいない。これはよく知られていることだ。谷口もこのことは知っていたようで、転校してきた日に野球部のグラウンドで丸井(らしき部員)に「キャプテンにあいたいんですけど」と声をかけている(キ一巻七頁)。普通なら監督に入部を頼むだろう。

 アニメ版の『キャプテン』の宣伝文句にも「監督も部長もいない野球部」と書いてあるが、監督はともかく部長もいないのだろうか。中学校のクラブ活動で、同好会でもない限り部長あるいは顧問の先生がいないとは考えにくい。部員がケガしたとき、学校側の責任問題になるからだ。責任教師がいないから、墨二の歴代キャプテンは特訓をやりたい放題やっていたのだろうか。

 このあたりの検証は『イガラシキャプテン編』で改めてやってみたいと思う。ちなみに、墨谷高校野球部にも監督はいないが部長はちゃんといる。しかしこの部長、「甲子園」という言葉すら知らないほどの、凄まじい野球オンチである(プ二一巻六〇頁)。

 さて、キャプテンを選ぶのは普通は監督だが、墨谷二中はキャプテンが全権を担っているので、前キャプテンが選ぶようである。まあ、それが妥当なところだろう。
 谷口も前キャプテンによってキャプテンに指名されたのであるが、墨谷二中にはいささか奇妙な儀式があるようだ。

 なんと前キャプテンが決めるのは新キャプテンだけでなく、新オーダーまで決めてしまうのである(キ一巻五八頁)。余談だが、この章の始めに主なメンバーを紹介しているが、谷口以外で加藤だけに下の名前が付いているのは、このオーダー発表の時に確認できたからだ。さらに、キャッチャーは小山ではなく「佐野」という選手である。
 しかしなぜ、次代のオーダーまで前キャプテンが決めなければならないのか。普通なら試合に合わせて現キャプテンが決めるものだろう。いくら前のキャプテンだからといって、でしゃばりすぎじゃないのか?
 もしかすると新キャプテンにかかる重圧を取り除いてやるための手段なのかもしれないが、それなら一緒に相談して決めればいいだろう。

 最初に「奇妙な儀式」と書いたが、ひょっとするとこの「儀式」に意味があるのではないか。
 この発表の時「いよいよ発表か……」と、みんなかなり緊張した面持ちだ(キ一巻五八頁)。しかも卒業する三年生がずらり並んでいるところをみると、この新オーダー及び新キャプテン発表の場こそが三年生にとっての野球部引退式で、来年度に引き継ぐための大事な儀式なのだろう。そしてキャプテンのところに「谷口タカオ」と書かれたら谷口が心底驚いていたから(キ一巻六〇頁)、この件に関しては一切根回しをされないのが不文律なのかもしれない。それならば、新旧キャプテンが相談して新オーダーを決めるのは不可能だ。前キャプテンにしたら、基本的な新オーダーは考えてやったから、あとはお前たちで創意工夫してくれというようなものだろう。

 この儀式は谷口が卒業する時はあったようだが、それ以降は行なわれていた形跡はない。
 それにしても前キャプテンはよくぞ谷口を新キャプテンに選んだものだ。影の努力でプレーは上手くなったとはいえ、ハニカミ屋の谷口は到底リーダー向きとは思えない。副キャプテンに選ばれた小山の方が適任だろう。新入部員を迎えた時の小山の挨拶は実に堂々としていた(キ一巻七九頁)。

 しかしそうなれば、谷口はただの上手い選手で終わっていただろし、墨谷二中も大して変わらなかっただろう。谷口がキャプテンになったからこそ、その後の墨谷二中の歴史が大きく変わったのだ。

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