トップ野球少年の郷第7回
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第一章 墨谷第二中学校 谷口キャプテン編−6

 A墨谷二中×金成中(地区予選二回戦)球場=不明

 墨谷二 000 010 00?=?
  金 成 110 201 01?=?
 勝=松下 負=?

 二回戦は強敵の金成中と対戦するにあたり、墨二はセカンドを丸井から一年生のイガラシに代えて試合に臨んだ。金成のエースは打ちごろで各打者の得意なコースを投げ、墨二の打者はいい当たりを連発するも金成の好守備に阻まれる。逆に金成の攻撃はいい当たりこそないものの走者が出るとバントで確実に送り、そつなく点を加えて試合を有利に進めた。中盤、墨二は相手投手がなぜ打者の得意な球ばかり投げるかがわかり、ウラをかいて一点を返したが、金成のデータ野球の前にその後は沈黙した。
 一対六と五点のビハインドで迎えた墨二の九回表の攻撃、策では金成に勝てぬと悟った墨二ナインは思い切り打つ本来の野球を取り戻した。それは金成のデータを上回る打棒となって爆発し、試合を一気にひっくり返した(九回表に何点取ったかは不明)。

 〈検証〉墨二野球部の規則「一年生は九月になるまで試合に出さない」

 一回戦終了後のミーティングで谷口が、江田川に勝てたのはイガラシの忠告のおかげ、と言ったが、これに対しイガラシは、お礼よりも試合に出して欲しい、と言った(キ一巻一六〇頁)。しかしネックとなったのは、墨二野球部の「一年生は九月になるまで試合に出さない」という規則だ。谷口は転校生だったのでこの規則を知らなかった。

 なぜこんな規則があるのか。「入部から九月までの期間はチームになじませると同時に基礎体力づくりをする」ことになっている(キ一巻一六二頁)。九月とは要するに、三年生が引退して新チームを作る時期である。もちろんイガラシは納得せず、谷口も一年生にチャンスを与えたいと考えていた。
 この規則には賛否両論あるだろうが、筆者には悪い規則とは思えない。中学生というのは体の伸び盛りで、小学生とは体のつくりが全く違う。いきなり二、三年生と同じ練習をすれば体を痛める可能性がある。一見、理不尽に思える規則も理に適っているのだ。

 でも、イガラシのような腕に覚えのあるものは杓子定規に規則を振り回されて試合に出られないのは到底納得できないものだろう。事実、江田川は井口が一年生ながらエースで四番を務めていた。一概にどちらがいいとは言えないのだ。
 規則を盾にナインからは一年生(というかイガラシ)起用を反対されたが、二回戦の相手が強敵の金成と決まったため、、テストで抜群のプレイを見せたイガラシをセカンドで起用し、二年生の丸井をメンバーから外した(キ一巻一八一頁)。決断力が無いと言われた谷口による、ナインの反対を押し切っての英断だった。
 翌年、キャプテンになった丸井はこの規則を踏襲しようとしたが、谷口がこの規則を破ったことを理由に一年生の近藤を起用している。以降、墨二野球部ではこの規則は有名無実のものとなっている。

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