トップ野球少年の郷第32回
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第三章 墨谷第二中学校 丸井キャプテン編(キャプテン 五〜九巻)−3

〈検証〉春の選抜大会について

 第一章で『キャプテン』世界には高校野球のように春の選抜大会と夏の選手権大会があると書いた。選抜大会の選考方法は現実の高校野球と大きな違いがあると書いたが、それ以外にも大きな違いがある。
 それは、現実の高校野球の選抜大会には一年生は出場できないが、『キャプテン』世界の中学野球の選抜大会には一年生が出場できるのである。
 高校野球の選抜大会が開幕するのが、春休みが始まる三月二五日前後。つまり入学式の前だから、新一年生が出場できないのは当たり前だ。そもそも高校野球の選抜大会は前年度の一、二年生による秋季大会を参考資料に選ばれるのだから、データのない新一年生の出場を認めるとおかしくなってしまう。

 一方、『キャプテン』世界の中学選抜大会は間違いなく入学式後に行われている。詳しい日時はわからないが、墨二が新入部員を迎えた後に選抜大会を迎えていた。
 そして、そのことを実証する資料を発見した。
 それはこの二年後、近藤がキャプテンになったときの練習計画ノートで確認できる。
 このノートによると、選抜大会用レギュラー選び期間は四月三日〜一一日となっている(キ二六巻一五〇頁)。四月三日というと春休み中である。入学式は既に行われていた可能性もあるが、新一年生が練習に参加はしていなかっただろう。丸井の代の時も、授業を受けてから新入部員を迎えていたから、新入部員が練習に参加するのは一学期が始まる四月八日以降と思われる。

 そして選抜練習が四月一二日〜一九日までとなっている(キ二六巻一五一頁)。つまり、選抜大会は少なくとも四月二〇日以降に開幕するということだ。閉幕はいつかはわからないが、このノートによると遅くとも五月一日には終わっている(キ二六巻一五一頁)。つまり、大会期間は最大限一一日間しかないということだ。丸井の代では選抜大会は三二校参加しているようであり(キ六巻六九頁)、充分試合をこなせる日数だが、それでも春休み中の大会ではない。墨二のように東京の学校ならいいが、選抜大会は全国から集まってくる。首都圏以外の学校は授業をほっぽり出して東京に宿泊するのだろうか。学年最初の大事な時期に。

 もっとも、甲子園だけで行われる高校野球の選抜大会とは違い、複数の球場で開催されている可能性もある。それならば一一日間もかけなくてもよい。事実、近藤が選抜大会の試合中に「あ、あのデブちゃん、たしかこの球場で大会第一号ホームランを打った……」と言っている(キ二六巻五〇頁)。「この球場」とわざわざ限定で言っているところをみると、他の球場でも行われていると考えた方が自然だ。
 しかし、そうだとしても土日だけでの開催は不可能であり、なぜこんな大会を文部省(現在の文科省)が容認していたのか理解に苦しむ。春休み中に開催すればいいではないか。

 どうしても一年生に参加のチャンスを与えたかったのだろうか。そうとしか思えない開催時期だ。前にも書いたがこの選抜大会の場合、現実の高校野球と違って前年度の新チームによる戦績で選ばれるのではなく、旧チームの夏の大会の印象度で出場が決まる。つまり、旧三年生が抜けたチーム力はどっちみち未知数だから、新一年生を入れても構わないというわけだ。一年生が活躍してくれたら大会も盛り上がると考えていたのかも知れない。

 ただ、高校野球に比べて、かなりの過密日程で行われていたのは間違いない。当時の高校野球の選抜大会は約三〇校参加で約一〇日間の日程で行われていた。『キャプテン』世界の選抜大会が三二校参加とすれば、決勝戦進出校は五試合しなければならないから、最低五日間は必要だろう。つまり土日を含めて五日間で大会をこなす日程だ。これだと授業が丸々潰れるのが三日、当時は土曜日が半ドンだったから、決勝戦まで進出した二校のみ三日半、授業を潰すことになる。一、二回戦で敗れる二四校は、土曜日の開幕とすると半日だけ授業を潰すだけで済む。これが文部省にとってギリギリ譲歩できる線だったのではないか。ただし、そうなると優勝するためには五日間、休み無しで全勝する必要があるが。

 そう考えると、イガラシがキャプテンのときに、選抜大会に向けて無茶な練習(それが元で選抜大会を棄権することになった)を強いていたのがわかる。イガラシは「選抜で優勝するには並外れた体力が必要条件」と言っていた(キ一〇巻一六五頁)。筆者はたかが五試合するのになぜ「並外れた体力が必要」なのか、イガラシの言葉が全く理解できなかったが、『キャプテン』世界の選抜大会の仕組みを調べてようやくわかった。五日間で全国の強豪を相手に五勝するためには、たしかに「並外れた体力」が必要だろう。ただ、全国中学野球連盟の大田原委員長には、中学生の健康管理だけは充分配慮してもらいたいところだ。

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