トップ野球少年の郷第35回
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第三章 墨谷第二中学校 丸井キャプテン編(キャプテン 五〜九巻)−6

〈検証〉丸井のキャプテン解任騒動

 選抜で港南に敗れた後、墨二ナインは学校に戻って丸井抜きのミーティングを行った。なぜ丸井が不在なのかと言えば、帰りのバスで途中下車したからである(キ六巻一七九頁)。前にも少し書いたが、墨二は全国大会中でも高野台球場への行き帰りに路線バスを使っている。合宿を行っている気配もない。まあ春の選抜は、前にも書いたとおり春休み期間ではなく通常の授業がある中で行われているので、合宿などできないのかもしれないが。ちなみに高校野球の大阪や兵庫代表校は、たとえ甲子園から近くても、ホテルや旅館で合宿生活をする。

 バスを降りた丸井は、球場に戻って練習試合の相手を探す(キ六巻一八五頁)。全国のあらゆるチームに通用するためである。と言っても、北海道や九州の学校では遠すぎてダメなのだが。中には「九州中学」というスゴイ名前の中学もあった(キ六巻一八八頁)。なんと範囲の広い中学なのだろう。

 こうして丸井は選抜校が九校、見学に来ていた学校が二七校、計三六校との練習試合を決めてきた。丸井が学校に戻った時もまだミーティングが続いていたから(キ六巻一九〇頁)、さほど長い時間ではなかっただろう。それでよくぞこれだけの学校と練習試合の約束ができたものだ。いや、それ以前に三六校もの学校と接触できただけでも凄い。いや、北海道の学校に断られているから(キ六巻一八六頁)最低でも三七校か。

 さて、丸井が東奔西走していた頃、墨二野球部部室では恐ろしい会議が続けられていた。なんと丸井をキャプテン不適格と決定したのだ(キ六巻一九二頁)。加藤が、欠席裁判のようになってしまって……、と言っているが、たしかに本人不在の時にこんな重要事項が決められるのは丸井にとっては酷だ。さすがに丸井も落胆し、自分がキャプテンとして不適格だと認めているが(キ六巻一九三頁)、しかしこれでは大袈裟な言い方をすれば民主的な政権交代というよりクーデターだ。だが、丸井は自分の非を認め、三六校との練習試合を次期キャプテンに実行してもらうように頼み、新キャプテンを決める会議には出席せずに学校を去った(キ六巻一九五頁)。

 丸井のいなくなった部室で新キャプテンを決める会議が続けられたが、イガラシの、チームのこれからのことを考えたのは丸井さんだけ、という言葉にナインも納得し、再びキャプテンになってもらおうと丸井に掛け合う(キ六巻一九八頁)。谷口が丸井をキャプテンに選んだのは、丸井の一途なまでのチーム愛であり、それがナインにもようやくわかったのだ。

 しかし、問題はその後である。キャプテン再要請に丸井はすぐには首を縦に振らなかった。それは当然だろう。一度キャプテン失格を言い渡しておいて、その舌の根も乾かないうちにやっぱりキャプテンを続けてくれでは、あまりにも人をバカにしている。

 結局、丸井が再びキャプテンを引き受けるのはなんと夏休みに入る一日前、つまり一学期最後の日なのだ。これは一般生徒が成績アップを喜び、「これで夏休みはおおっぴらに遊べるもんねーっ」と言っているときに(キ七巻八頁)、まだキャプテンが決まっていないことでわかる。キャプテン解任騒動が起きたのが選抜開幕日だったから四月二〇日頃。一学期最後の日は七月二〇日頃だから、丸々三ヵ月もキャプテン不在だったのだ。監督がいない墨二野球部にとってこれは異常事態といえる。その間野球部はどういうふうに運営されていたのだろう。もちろん三ヵ月間、全く練習していなかったとは考えられず、丸井とナインは毎日顔を合わせていたはずだが、キャプテン問題は置き去りにされていたのだろうか。これはまさしく「失われた三ヵ月」である。

 一学期最後の日、丸井はキャプテンを引き受ける条件を示した。それは三六校との練習試合で全勝するために夏休み期間、合宿を張り、その合宿に付いて来る気があるならキャプテンを引き受けるというものだ。もちろんナインは丸井の合宿プランに付いて行くと誓い、丸井のキャプテン復帰が決まった(キ七巻一七頁)。こんなことが条件なら、三ヵ月の間にさっさとキャプテン復帰を引き受けて、三六校との練習試合に備えたらいいのに。しかも丸井は、ナインの返事を聞く前に、合宿を張るために講堂の使用許可を事前に取っていたり、初めからキャプテンを引き受けるつもりだったようだ……(キ六巻一八頁)。


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