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第三章 墨谷第二中学校 丸井キャプテン編(キャプテン 五〜九巻)−11

〈検証〉墨二×青葉、因縁の対決

 地区予選決勝で、墨二と青葉が一年ぶりに対決した。地区予選ではあるが、青葉の部長は、墨二との戦いが事実上の全国大会決勝戦である、という見方をしている(キ八巻四五頁)。なにしろ青葉は春の選抜でエース佐野が全試合無失点で優勝しているし(キ八巻九八頁)、墨二は選抜初戦敗退とはいえ、選抜四強の川下に勝つ(不戦勝)など、前年よりも力をつけている、と青葉の部長は見ている(キ八巻四四頁)。

 青葉はエース佐野と一〜五番まで前年のメンバーがそっくり残っている、まさしく黄金世代だった。彼らが二年生だった前年、春の選抜を制し、夏も墨二戦のルール違反がなければ優勝していた怪物チームだった。それを無名の公立校だった墨二が僅か一年足らずで追いついたのだから凄い。

 また、前年との戦いで決定的に違うところがある。それは、墨二ナインが全く緊張していないということだ。いきなりの全国大会決勝となった前年はすっかりあがってしまい、墨二は序盤に九点のリードを許してしまうが、この年は試合前の昼食で爆笑に包まれていた(キ八巻五四頁)。これは近藤が顔に似合わず、母親のことを「ママ」と呼んだり(キ八巻五三頁)、弁当を食べるときに「あーん」と言ったりしていたからだ(キ八巻五五頁)。この墨二のリラックスぶりを青葉の部長は、勝つ自信があるから、と分析している(キ八巻五九頁)。もっとも、この時点では部長も自信満々だったのであるが……。

 墨二の先発は近藤だった。選抜以降、イガラシが先発したことはない。丸井は近藤を嫌いながらも、それだけ信頼できる投手になったからだろう。もちろん、近藤が投手を務めるとイガラシにサードを任せられるため、ディフェンスがしっかりするという面もあるのだろうが。

 しかし青葉打線は甘くない。先頭の中村にヒットを浴びた後(キ八巻七四頁)、二番の藤田に先制2ランを浴びる(キ八巻八〇頁)。青葉も強気だ。普通ならここは送りバントだろう。だが、その後は近藤のコーナーをつくピッチングと、ナインの好守で後続を断ち切った。ただし、三振は奪えなかった。近藤が一イニングに一つも三振を獲れなかったのは生まれて初めてらしいが……(キ八巻九六頁)。

 しかし墨二打線も負けてはいない。その裏、先頭の高木が佐野からセンター前ヒット。このとき、アナウンサーも解説の杉浦もビックリしているくらいだから、佐野が打たれるのはよっぽど意外だったのだろう(キ八巻一〇九頁)。続く二番の加藤もライト前ヒット(キ八巻一一二頁)。しかし江東戦で初回無死一塁の時、バントで送るべきのところを、青葉に手の内を見せないために強攻策に出たのはなんだったのだろう(キ八巻一八頁)。よっぽど佐野攻略に自信があったのだろうか。選抜での佐野は見ているのだろうが、夏の地区予選は二軍任せなので当然、登板はなし。一軍は報道人((ママ))をシャットアウトして猛特訓をしていたので(キ七巻一六四頁)、現在の佐野の実力はわからないはずだが。

 だが、墨二は選抜のときより一段と成長した佐野(キ八巻一〇二頁)を打ちまくり、あっという間に四点を奪って逆転した(キ八巻一二六頁)。さらに八番の遠藤までがあわや3ランの大ファールを打っている(キ八巻一三〇頁)。これが入っていれば七―二になり、試合は決まっていただろう。しかし次に遠藤が打ったライトオーバーの打球は、青葉のライトのスーパーファインプレーでアウトになり(キ八巻一三二頁)、さらにそのライトのスーパー強肩により一塁に送球されてダブルプレーとなった(キ八巻一三三頁)。東実高のセンター・町田並みのスーパー守備だ。

 二回表、墨二はまた一死一、三塁のピンチを迎える(キ八巻一四二頁)。ここで丸井がマウンドに駆け寄り、お前だけで抑えられる相手じゃないんだから自信をなくすことはない、と慰めるが、近藤は「よけい自信なくすことをいうんやから、もう」と呟く(キ八巻一四三頁)。筆者には近藤のこの心情がよくわかる。これはお前は大した投手ではない、と言われているようなものだ。このときの丸井は近藤の自信を無くさせるためではなく、本気で近藤を慰めているのだが、丸井は近藤の性格を把握していなかったようだ。

 しかし、イガラシのファインプレーの併殺によって、この回はなんとか無得点で切り抜けた(キ八巻一四五頁)。
 その後、近藤と佐野の投げ合いが続き、両ナインの好守によって無得点のまま、四―二の墨二リードで九回表の青葉最後の攻撃を迎えた(キ八巻一四九頁)。


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