トップ野球少年の郷第48回
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第四章 墨谷高等学校 谷口二年生編(プレイボール 八〜一八巻)−7

B墨谷高×大島工業高(東京大会三回戦)球場=駒沢球場

 墨 谷 200 000 000=2
 大島工 000 000 000=0
  勝=谷口 負=黒川

 三回戦でシード校の大島工と対戦。墨高は大島工のエースで左腕の黒川の立ち上がりを攻め、初回に二点先制。しかし、立ち直った黒川からは以降得点できなかった。

 墨高の先発の谷口は強打の大島工打線を巧くかわし、五回まで無得点に抑えた。振り回していては谷口を打てないと気付いた大島工だったが、六回から松川がリリーフしたことにプライドを揺さぶられ、また振り回し始めたために松川を打ち崩せず、谷口―松川の完封リレーで墨高が大島工を二―〇で破った。

 〈検証〉シード校との激突

 一、二回戦で三〇点近く取って大勝した墨高は(プ一二巻一〇四頁)、三回戦で初めてシード校の大島工業と対戦した。なお、組み合わせ抽選の時は、大島工業は二回戦で対戦するかも知れない、かつてはシードされたことのある学校で(プ一一巻一三七頁)、三回戦で対戦するのはシード校の双葉商業のはずだった(プ一一巻一三六頁)。抽選会に行った半田は組み合わせ表をメモした時(プ一一巻一三五頁)、校名を間違えたのだろうか。それはともかく、墨高が三回戦で大島工業と対戦したのは事実なのだから、こちらを優先する。なお、リメイク版では「江戸川実業」なる高校を二回戦で破るが、本書では無視する。

 一回表の墨高の攻撃。大島工のエース左腕・黒川は立ち上がりが悪く、一番の山本にいきなり死球を与えてしまう(プ一二巻一〇一頁)。二番の太田は、いつもは手堅く送ってくる墨高には珍しく、果敢に強攻策に出て、見事にレフト前ヒットで無死、一、二塁(プ一二巻一〇八頁)。

 三番の倉橋に対しては、黒川の武器であるインカーブではなく、倉橋が苦手としている外角を攻めた。しかし外角にヤマを張った倉橋はライトオーバーの二塁打を放ち、二者を迎え入れ、墨高がいきなり二点先制(プ一二巻一一七頁)。しかしこの倉橋の快打にも問題があったことが後にわかる。

 四番の谷口は徹底的にインカーブで攻められる。この頃になると黒川の制球も安定し、谷口はカットするのが精一杯だった。それでも立ち位置やフォームを変えない谷口に対して、二塁ランナーの倉橋は「ちょっとうしろにさがって叩いてやりゃすむものをよ」と呆れていた(プ一二巻一三七頁)。

 しかしファールを重ねていた谷口はインカーブにタイミングを合わせ、見事にセンター方向へ打ち返した。しかしこの打球は大島工のセカンド・町田のファインプレーによりセカンドライナー、飛び出していた倉橋は戻れずダブルプレーとなった(プ一二巻一四〇頁)。しかしフォームを変えず、インカーブをセンター返しされた黒川にとってはショックだった(プ一二巻一四一頁)。

 五番の山口は苦手のインハイを攻められるが、2―0と追い込まれた四球目、インハイにヤマを張った山口は体を開き、レフトフェンス直撃の大ファールを打った(プ一二巻一四七頁)。しかし一見いい当たりに見えるこの打球に対しても、谷口は「ま、まずい」と危機感を持っていた(プ一二巻一四六頁)。

 谷口の呟きを聞いた倉橋は、山口の打ち方のどこがまずいのかわからなかったが、谷口は「ヤマをはるのはかまわんが、フォームをくずして打ったもんでね」と答えた(プ一二巻一四八頁)。さらに谷口は倉橋の二塁打についてもフォームが崩れていたと指摘。しかし倉橋は逆に、谷口が内角攻めに遭っているのに、なぜ後ろに引いて打たないのかと不思議だった。

 これに対しても谷口は、そんなことをしたら投手が投げやすくなる、と説明。打者がヤマを張れば、投手は当然ウラをかく。そういう攻防になれば、フォームを崩している打者が不利になるというわけだ。さらに一番怖いのは、そうやって今まで築き上げてきたフォームが壊されてしまうことだ、と倉橋に説明した(プ一二巻一四九頁)。
 この谷口の打撃理論はまっこと正しい。ちなみに谷口が一年の時の京成戦では、谷口自身がフォームを崩して三塁打を打っている(プ二巻九二頁)。谷口は投手をやるようになってからこの理論に気付いたのだろうか。いずれにしても、目先の結果を求めて自分のフォームを崩すのは良くない、というのは理に適っている。ちなみに山口は、外角に吊らされて打ち取られた(プ一二巻一五〇頁)。
 そのことをみんなに説明するように倉橋は勧めたが、谷口は「いや、次の攻撃の時にしよう。バッティングのことを頭にいれたまま守備につかせちゃ、ポカをせんともかぎらんしな」と答えた(プ一二巻一五〇頁)。倉橋はこの谷口のリーダーシップに感心していた(プ一二巻一五一頁)。

 一回裏、大島工の攻撃。二点先制されたにもかかわらず、大島工ベンチは余裕シャクシャクだった(プ一二巻一五三頁)。なにしろ打撃が看板のシード校である。よほど自信があるのだろう。
 墨高の先発は谷口。いきなり一番の桜井にセカンド内野安打を打たれ(プ一二巻一五九頁)、二番は墨高と同様に強攻策、セカンドに入っている松川のファインプレーで一死二塁。

 三番の金井は、二塁ランナーがコースのサインを送ってくるためにヤマを張ることができ、フォームを崩していい当たりのファールを打った(プ一二巻一七二頁)。さっきとは逆に、こうなると谷口の餌食になる。谷口と倉橋は、二塁ランナーにサインを盗まれないように、ノーサインに切り替えた(プ一二巻一七三頁)。変化球までノーサインにしたのかどうかはわからないが。結局、巧くウラをかいて金井をファーストライナーに打ち取った(プ一二巻一八〇頁)。しかし、ウラをかいてもヒット性である。谷口は「あんなバッターが打ち気をおさえてミート打法に徹しでもしたら、ただじゃすまされんだろうな」と警戒心を強めている(プ一二巻一八一頁)。

 捕手で四番の幸田は、半田が、歩かせられれば歩かせる、と言っていたほどの強打者だ(プ一二巻一八二頁)。倉橋は敬遠半分の勝負に出ようとしたが、幸田はボール球を無理に打ちに行ってライトフェンス直撃の大ファール(プ一二巻一八六頁)。幸田が振り回している間は勝負できると判断した倉橋と谷口は一転して勝負(プ一二巻一八七頁)。やはり幸田のウラをかいてレフトフライに打ち取り、無失点で切り抜けた(プ一二巻一九二頁)。

 二回以降、墨高は立ち直った黒川からなかなか得点が奪えなかった。どうでもいいことだが、一回戦の言問戦で五番だった中山が、この試合では八番もしくは九番になっている(六番が横井、七番が島田)。一、二回戦は調子が悪かったのだろうか。ちなみに四回戦以降は六番に落ち着いている。

 六回裏の大島工の攻撃、大島工の監督は振り回していては谷口を打ち崩せないと、選手にミート打法をするように指示(プ一三巻二六頁)。ところがその谷口が降板、一年生の松川にスイッチした(プ一三巻二七頁)。
 この交代が大島工を怒らせた。シード校の大島工がベストメンバーで戦っているのに、ノーシードの墨高が四回戦に備えてエースの谷口を温存したのである。

 そして大島工は再び振り回し始めた。こうなると倉橋の術中にはまる。谷口はそこまで考えて投手交代をしたのかは不明だが、谷口が続投していればミート打法に徹していただろう。四回戦では松川を先発させており、おそらく松川を信頼しての、予定通りのリリーフだったと思われるが、これが意外な効果を産んだのかもしれない。そうだとすると、谷口は温存できるし、松川で抑えられるし、一石二鳥だ。それにしても、大島工の監督は何をやっていたのだろう。「大島を甘くみりゃどうなるかおしえてやるんだ」と選手の怒りの火に油を注ぐようなことを言っている(プ一三巻三〇頁)。

 結局、大島工は松川を打ち崩せず、墨高が二―〇でそのまま逃げ切った(プ一三巻五四頁)。

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