トップ野球少年の郷第51回
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第四章 墨谷高等学校 谷口二年生編(プレイボール 八〜一八巻)−10

〈検証〉奇跡の大逆転

 九回裏、墨高は五番の山口からの攻撃。聖陵のエース岩本は疲労のため、シュートでストライクが取れなくなっていた。そのためストレートのド真ん中で勝負、2―3からレフトへ大きな当たりをされるも、島原のファインプレーによって一死(プ一五巻一七頁)。さすが守備要員の島原、凄すぎる守備だ。

 しかし六番の中山はヒットで出塁(プ一五巻二四頁)。このヒットもセンターオーバーなのにレフトの島原がバックアップしてシングルヒットに抑えている。七番の横井に対し、聖陵守備陣はセーフティバントを警戒するも(プ一五巻二七頁)、2ストライクを取った時点で警戒を解き、それを見た谷口がスリーバントのサインを送った(プ一五巻三六頁)。もちろん、送りバントではなくセーフティバントである。岩本が投げる球はストレートのド真ん中ばかりである。こんな素直な球ならバントをしくじることも無いだろう。しかも岩本は投げた後に体勢を崩している。塁に走者を溜めるのにはいちばんいい方法だ。谷口はそう考えた。この作戦に倉橋は、「いやに慎重かと思えば、大胆なことを思いつくやつだぜ」という感想を抱いている(プ一五巻三七頁)。この作戦はまんまと成功、一死一、二塁となった(プ一五巻三九頁)。

 八番の島田の時に牽制悪送球で一死二、三塁(プ一五巻四三頁)、さらにストライクが入らずカウント1―3になって、岩本はスローボールでストライクを取った(プ一五巻五八頁)。これにはキャプテンの西田もたまらず、左腕の木戸をリリーフに送り、岩本をライトに下げた(プ一五巻六四頁)。

 しかし木戸は大きなファールを打たれたあと結局島田を歩かせ(プ一五巻七四頁)、一死満塁から九番の松川に死球を与え、押し出しで一点を返された(プ一五巻七七頁)。木戸は緊張しまくって、リリーフとしてはものの役に立たなかった。

 岩本がライトからマウンドに戻り、木戸が投げた三球分しか休めなかったが、幾分か球威が戻り、山本をセンターフライに打ち取った(プ一五巻九二頁)。墨高はタッチアップで一点を追加したものの、二死を取られた方が痛かった(プ一五巻九三頁)。

 三―五で二死一、二塁、二番の太田が放った打球は三遊間へ、これをサードが弾き、内野安打となって望みを繋いだ(プ一五巻一〇七頁)。この打球を捕れなかったことに岩本は帽子を地面に叩きつけて怒っているが(プ一五巻一〇九頁)、これはサードの矢木に失礼だろう。もちろん公式記録員はヒットと判定し、それがわかって岩本も矢木に謝っていた(プ一五巻一一〇頁)。

 二死満塁で三番の倉橋は左中間へヒット(プ一五巻一二五頁)、島田が還り一点差、さらに松川が同点のホームを突く。普通なら楽々還れる当たりだが、ここは鉄壁の聖陵外野陣、クロスプレーになった。
 ここでキャッチャーの西田が例によってマスクを置いた(プ一五巻一二七頁)。しかし今回は球審が素早く気付き、マスクを蹴飛ばした(プ一五巻一二八頁)。クロスプレーとなった本塁は松川のヘッドスライディングが一瞬速く、墨高はとうとう同点に追いついた(プ一五巻一二九頁)。

 墨高の応援団はもう勝ったような大騒ぎ(プ一五巻一三〇頁)、逆に聖陵ナインは負けたかのように意気消沈としていた(プ一五巻一三二頁)。野球では一旦流れが相手に行くと、もう一度その流れを引き戻すのは難しい。しかも九回表までは九分九厘、聖陵が勝つ試合だったのである。それを同点にされたら、墨高が押せ押せになるのは当然だ。
 二死二、三塁で四番の谷口は当然敬遠(プ一五巻一三六頁)。墨高の勝利は五番の山口のバットに全てがかかった。

 インシュート打ちが苦手な山口も、岩本の投げるシュートはもはやシュートと呼べるものではなく、打ち頃の球になっていた。岩本は墨高の執拗な攻撃に体力も気力も既に消耗していたのである(プ一五巻一四一頁)。
 山口が放った打球は島原の頭上を越えて、レフトスタンドへ飛び込むサヨナラ満塁ホームラン(プ一五巻一四三頁)。墨高は九―五で奇跡の逆転勝ちを収めた。

 それにしてもこの試合、前年度の東実戦と得点経過がよく似ている。共に八回裏の攻撃まで五点のビハインド、その八回裏の攻撃では東実戦が二点、この試合では一点を取り、九回裏には八点を取っている。しかもご丁寧なことに、最後の打者は両試合とも山口だ。アウトとホームランという違いがあるが……。

 東京大会史上に残るであろう大逆転勝ちで、墨高は五回戦に進出した。

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