トップ野球少年の郷第53回
目次>野球少年の郷第53回    <第52回へ戻る  >第54回へすすむ

第四章 墨谷高等学校 谷口二年生編(プレイボール 八〜一八巻)−12

D墨谷高×専修館高(東京大会五回戦)球場=明治神宮球場

 専修館 010 000 010=2
 墨 谷 000 000 003=3
  勝=谷口 負=百瀬

 準々決勝進出をかけた五回戦、優勝候補の専修館との対戦。初回こそ二死満塁のピンチを〇点で切り抜けるも力の差は歴然で、二回には専修館の一番打者・君島のライト犠牲フライで先制点を許す。

 その後、墨高の先発・谷口は毎回ランナーを出しながら、好守備にも助けられ、七回まで一失点で食い止める。しかし八回表、無死満塁から専修館の四番打者・原田にライト犠牲フライを打たれ、〇―二とリードを拡げられた。
 一方の墨高打線は専修館の左腕エース・百瀬の速球とスローカーブを織り交ぜた配球にてこずり、反撃の糸口さえ掴めなかった。そんな八回裏、試合前に東実から貰った専修館攻略メモに半田が疑問を抱く。谷口はわけもわからずに打者の島田にメモ通りの打席位置に立たせるように指示を出すが、粘っているうちにこの打席位置の意味が島田にはわかった。百瀬の決め球であるカーブを防ぐための秘策だったのだ。

 八回裏は無得点に終わったとはいえ、百瀬攻略のヒントを得た墨高は、九回表の一死満塁の大ピンチをなんとか〇点で凌ぎ、九回裏の最後の攻撃に全てを賭けた。
 しかしその攻撃も二人が倒れて二死無走者と絶体絶命の場面になる。だが、二番の太田はしぶとくレフト前ヒットで出塁。三番の倉橋を迎えたところで専修館は二年生の加藤をリリーフに送った。でも、加藤は倉橋にレフト前ヒットを打たれ、四番の谷口に対してはビビってしまい、ストライクが入らない。

 0―2になった時点で再び百瀬をマウンドに戻すが、谷口は百瀬からセンターオーバーのツーベースを放ち、一点を返してなおも二死二、三塁と一打サヨナラのチャンスを掴んだ。
 五番の山口は死球で出塁、二死満塁で六番の中山を迎えた。中山は百瀬の速球をとらえ、センターオーバーの当たり。倉橋がホームを踏んで同点、二塁ランナーの谷口はホーム寸前で疲労のため足がもつれて倒れるも、なんとか逆転のホームを踏み、劇的なサヨナラ勝ちとなった。

 四回戦の聖陵戦、五回戦の専修館戦と、いずれも奇跡的な逆転サヨナラ勝ち。しかも誰も予想しなかった、無名でノーシードの都立校である墨高が、優勝候補の専修館を破るという快挙を引っさげて、墨高は準々決勝に進出した。

 〈検証〉優勝候補・専修館

 墨高は五回戦で優勝候補の専修館と対戦した。なおこの専修館、聖陵もそうだったが強豪の割には監督がいない。専修館は四回戦でシード校の三山を三回コールドで退けた(プ一六巻八頁)。墨高はこの試合を見ていたが、専修館の強打とエースの左腕・百瀬の速球に圧倒された。

 この試合後、学校に戻った谷口は、強い打球に対抗するため、墨谷二中時代の近距離ノックを行った。中学時代に経験のある島田でさえ、硬球相手の近距離ノックは厳しすぎた。でも、外野の島田になんで近距離ノックが必要なのだろう?

 守備特訓はそれでいいとしても、百瀬の速球対策が問題だった。これも中学時代のように中山を近距離から投げさせればいいと筆者は思ったが、なぜか谷口はその特訓を思いつかなかった。すると半田が、金井町にあるバッティングセンターには速度調整が利く台があると言った(プ一六巻二七頁)。半田でもバッティングセンターに通っているらしい。それならば、もう少し上手くなっても良さそうなものだ。それに、金井町ってどこだろう。京成沿線に金町という所ならあるのだが。

 このバッティングセンターで速球打ちの練習をした墨高は、いよいよ専修館との対戦の日を迎えた。
 控室で出番を待っていると、東実ナインが通りかかった。その様子から、試合に負けた直後だということが谷口にはすぐわかった(プ一六巻五二頁)。東実はベスト8入りできなかったのだ。前年度、東実のキャッチャーだった大野はまだ卒業していなかったらしい。エースの中尾とはタメ口で喋っていたのだが。

 その大野が谷口に専修館の偵察メモを渡した(プ一六巻五四頁)。少なくともこの年は東実よりも専修館の方が実力が上のようだが、それでも両校は練習試合をしているらしい。墨高と聖陵の試合を見ていた時は墨高に対して苦手意識があった大野だったが(プ一五巻六三頁)、専修館に対しては戦力差があると感じていたようだ。しかしこの大野がくれたメモが試合を大きく左右することになる。
 一回表、専修館の攻撃。墨高の先発は当然、谷口。もう松川は投げられる状態ではないし(プ一五巻一六〇頁)、中山が専修館に通用するわけがないので、谷口は完投するしかない。そのためこの試合では松川はセカンドにすら入らず、セカンドは横井、レフトはほとんど出場の無かった戸室が守った。

 専修館の一番打者は、これまでにホームランを二本打っている君島(プ一五巻一六七頁)。長距離核弾頭だ。その君島はサード強襲のレフト前ヒット(プ一六巻八〇頁)。二番打者は送る気が全くなく、強い打球はショートへ。山口が弾くも落ち着いて処理し、打者走者をなんとか刺した(プ一六巻八五頁)。

 一死二塁で三番の大杉は三塁線へライナー。しかしこれを中山が好捕、併殺はならなかったが二死二塁とした(プ一六巻九〇頁)。

 ここで打者は四番の原田。外野手はみんなフェンスにへばりついた(プ一六巻九三頁)。0―2からの三球目、原田は外角低目を強引に引っ張り、レフト上段への大ファール(プ一六巻九九頁)。この豪打を見せ付けられると、一塁も空いているので敬遠せざるを得なかった(プ一六巻一〇二頁)。

 二死一、二塁で五番の小田桐。長打力では原田にヒケを取らない(プ一六巻一〇二頁)。外野手はフェンスにへばりついたままだ(プ一六巻一〇三頁)。小田桐は小技を見せてセンター前へポテンヒット(プ一六巻一〇七頁)。二死満塁となった。それにしてもセンターの太田もフェンスいっぱいに守っていたのに、二死からのポテンヒットで二塁ランナーの君島はホームに還れなかったのだろうか。トップバッターなのに、かなりの鈍足だ。一時期トップを打っていた阪神の今岡のようなものだろうか。

 やはり谷口の絶妙なコントロールをもってしても専修館打線には通用しないようだ。六番の村尾に対してもあわや先制打という三塁線のファールを打たれている(プ一六巻一一七頁)。そこで谷口は1―2からとっておきのフォークを投げ込んだ。しかし村尾は戸惑いながらも見事に三遊間に打ち返し、先制打と思われたが中山が好捕、三塁カバーに入った谷口にトス。間一髪フォースアウトで初回をなんとか無得点で切り抜けた(プ一六巻一二四頁)。それにしても、前年の東実が手も足も出なかった谷口のフォークを難なく打ち返すのだから、専修館は間違いなく東実よりは強い。それでも村尾が「フォークだぜ、フォーク!」と興奮して言っているところから(プ一六巻一二五頁)、専修館の選手でもフォークを投げるピッチャーとあまり対戦したことがなかったのだろう。

 一回裏の墨高の攻撃。バッティングセンターで速球対策をした墨高だったが、やはり生きた球は勝手が違い、一番打者の山本、二番の太田と打ち取られツーアウト。しかし三振は無く、攻撃に期待は持てた。そして三番の倉橋がしぶとくライト前へポテンヒット(プ一六巻一五三頁)。四番の谷口に先制点の望みを繋げた。

 谷口は百瀬のボールを見極め、またファールを打って食らいつき、バッテリーは配球を変えた。それまでは速球一本槍だったのを、スローカーブを混ぜるようにした。さすがの谷口もこれには対応できず、セカンドフライに倒れ、初回は無得点に終わった(プ一六巻一六九頁)。
 一回表裏の攻防は共に無得点だったとはいえ、内容的には専修館が圧倒していた。その本領を二回表の攻撃で見せた。
 七番の宮内が三遊間を破るヒットで出塁(プ一六巻一七六頁)。強力な専修館打線の中で穴的な存在である八番の山路がバスターを決めてライトへのヒット(プ一六巻一八一頁)。

 無死一、二塁で九番の百瀬。百瀬はピッチャーだから九番に入っているが、実は三、四番打者に匹敵する強打者なのだ(プ一六巻一八四頁)。その百瀬はライト前ヒットで無死満塁(プ一六巻一九〇頁)。墨高にとって絶体絶命のピンチになった。

 ここで一番の君島がライトへ犠牲フライ(プ一七巻一四頁)。専修館が先制点を挙げ、二塁ランナーも三塁へ進塁した。

 一死一、三塁で二番打者はスクイズの構え(プ一七巻一七頁)。しかし、バントをするならもっとピッチャー寄りに立つはずだと見抜いた倉橋はバスターを見抜き(プ一七巻一八頁)、前進守備を敷かせずにサードライナーに打ち取り、飛び出した三塁ランナーをアウトにしてこの大ピンチを一点で切り抜けた(プ一七巻二二頁)。
 この後、試合は膠着状態になり、墨高は毎回ランナーを許すも好プレーにより無失点で凌ぐも、攻撃では百瀬の速球とカーブをとらえることができず、〇―一のまま終盤の八回を迎えた。

inserted by FC2 system