トップ野球少年の郷第57回
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コラムA 歴代キャプテンの家族 

 墨谷二中の歴代キャプテン、谷口、丸井、イガラシ、近藤の家族構成はどうなっているのであろうか。

 まずは谷口。これはあまりにも有名で、父親、母親、谷口の三人家族だ。他のキャプテンに比べて登場回数もダントツである。父親は大工で、本人曰く「おもうように家を、たてられるようになった」らしいから(プ三巻一五五頁)、案外腕はいいのかも知れない。ただし、自宅の戸は建てつけが悪いし(プ一八巻一一七頁)、田所からは「かんろくのある家」と表現されているから(プ一〇巻四七頁)、腕前の方にはちょっと疑問符が付く。しかし、自慢の腕前で守備マシンまで造っているし(キ一巻四二頁)、『キャプテン』を読んだ野球少年は、自分のオヤジが大工だったらなあ、なんて思ったことだろう。この守備マシン、谷口の父親は野球マンガを参考に造ったそうなので(キ一巻四三頁)、逆に『キャプテン』を参考に、我が息子のために守備マシンを造った大工さんがいるかも知れない。

 そして、谷口の母親も有名な存在で、『キャプテン』及び『プレイボール』における唯一の女性レギュラーキャラだ。この両作品では女性の話はタブーのようで、谷口の様子が変だった時、鈴木が、恋の悩みかな、と言うと丸井が「谷口さんが恋なんてガラかってんだ!」と怒っている(プ二一巻四三頁)。丸井にとって神様にも等しい存在の谷口が、女性のことで悩むなど許されないことらしい。その丸井は墨谷二中のチアリーダーを見て顔を赤らめている(キ一八巻一六一頁)。あと、谷口にインタビューしていた墨谷二中の新聞部の女の子はかなり可愛かった(キ三巻一二七頁)。

 ところで、谷口の名前は「タカオ」だが、漢字は無いのだろうか。谷口がキャプテンに選ばれた時の発表でも「谷口タカオ」と書かれている(キ一巻五九頁)。ということは、やはり本名はカタカナなのかも知れない。ちなみにこの名前、ちばあきお先生の担当だった「谷口忠男(ただお)」氏からとったものらしい。
 ちょっと話は逸れたが、他に兄弟が登場しないので、谷口はおそらく一人っ子だろう。
 次に登場は、谷口の後を継いだ丸井。しかしこの丸井、実に多く登場しているにもかかわらず、個人情報がまるで無いのだ。

 丸井は、第三章でも書いたが『キャプテン』では最初から最後まで登場し、『プレイボール』でも一八巻から登場している。ジャンプ・コミックスの『キャプテン』で登場しなかったのは一〇、一七、二三、二五巻の四巻のみで、全二六巻のうちの登場巻数は二二巻となる。ジャンプ・コミックスの『プレイボール』に登場した五巻を加えると、両作品で登場した巻数は二七巻にものぼる。

 ちなみに両作品における真の主役とも言える谷口は、『キャプテン』では一〜五巻までで、卒業後は一切登場しない。『プレイボール』ではさすがに全二二巻全てに登場するが、両作品を合わせると、登場するのは二七巻。丸井と同数だ。

 そう考えると丸井の家庭環境などがもっと出て来てもいいはずだが、なんと下の名前すらわからない。また、墨谷二中の歴代キャプテンの中で、親の職業が全くわからないのも丸井だけだ。親は平凡なサラリーマンで、わざわざ描くことも無かったのだろうか。兄弟の有無もわからず、露出が最も多いにもかかわらず、最も謎に包まれているのも丸井である。関係ないが、丸井は墨谷二中歴代キャプテンの中で唯一、投手経験が無い。

 丸井の次はイガラシ。イガラシの実家は「いがらし亭」という中華ソバ・餃子屋だ(プ一〇巻一三二頁)。イガラシの家がソバ屋だということは、丸井が行った墨谷二中の夏合宿の時に判明する(キ七巻五八頁)。これはイガラシが美味いインスタントラーメンを作ったから話が発展したものだ。

 それにしても、『キャプテン』や『プレイボール』ではしばしば、「ラーメン」のことを「ソバ」と表現されている(プ三巻一一一頁他)。僕の感覚では「ソバ」と言うと「(日本)蕎麦」を連想するが、昔の人は「ソバ」とはラーメンのことらしい。「ラーメン」という言葉が定着したのは、日清食品のインスタントラーメン「チキンラーメン」が登場してからだそうで、当時は「ソバ=ラーメン」という構図が残っていたのかも知れない。現在でも「ラーメン」のことを、「中華そば」「五目そば」「汁そば」と書かれている店もある。

 話は逸れたが、イガラシの両親は登場しないが健在らしい。これは朝早くに二歳年下の弟の慎二に朝メシを作るように頼んだとき「おやじやおふくろをおこさねえようにな」と言っていることからわかる(キ一〇巻一三五頁)。この慎二の他に兄弟がいるのかは不明。さらに、弟の名前は判明しているが、イガラシ自身の下の名前はわからない。

 また、なぜ名字がカタカナで「イガラシ」なのか。店の名前はひらがなで「いがらし(亭)」だ。普通で考えたら「五十嵐」なのだろうが、この漢字は『キャプテン』『プレイボール』いずれでも一切登場しないので、本書では「イガラシ」と書かざるを得ない。

 最後の登場は近藤。谷口とは三歳違いなので、一緒にプレーすることは無く、全く面識がない。ただ、近藤は谷口の名前だけは知っていたようだ(プ二〇巻六〇頁)。

 近藤の父親の名前は茂太で(キ二四巻二〇頁)、ノンプロ(既に死語。社会人野球のこと)で野球をやっていて、かなり鳴らしていたそうだ(キ一一巻九二頁)。現在は「近藤モータース」という自動車整備工場の社長をしている(プ二四巻一一頁)。母親も健在で、メガネをかけたやや教育ママ風だ(キ二四巻八頁)。しかし父親は近藤の勉強に関してはすっかり諦めているらしい(プ一一巻一一八頁)。

 近藤の下の名前は「茂一」で(キ二四巻三五頁)、父親の「茂太」から取ったものだろう。つまり長男と考えられ、朝食風景でも父親、母親、近藤の三人だけだから、一人っ子の可能性が高い。なにしろ近藤は、未だに両親のことを「パパ(キ二三巻一二五頁)、ママ(キ八巻五三頁)」と呼んでいるぐらいだから、相当甘やかされていたのだろう。
 墨谷二中の歴代キャプテン以外では、墨谷高のキャプテンをしていた田所の家が「田所電気商会」という電気屋で、田所は墨谷高卒業後、家を継いだ(プ一〇巻四七頁)。しかし家族構成はわからない。

 ところで、墨谷高の学業レベルはどれぐらいのものだろう。墨谷高は言うまでもなく、東京都立高校である。
 田所が三年生の頃、野球部員の三年生の七名の中で、進学希望が三名、就職希望が四名だった(プ三巻一二四頁)。現在の進学率に比べれば低いので、進学校ではないと思われがちだが、当時とすれば高い水準だったとも考えられる。事実、谷口の母親が「ヤレヤレ、墨高も近頃おちたねえ」なんて言っていることから(プ一九巻六五頁)、この近辺では評判の高校だったと思われる。ちなみに丸井は、墨谷高の受験に失敗した(キ九巻一四七頁)。

 そして、墨谷二中時代は学年別テストで一〇番前後だったイガラシが(キ一一巻一一九頁)墨谷高に進学しているのだから、かなり高いレベルなのかも知れない。

 とすると、父親からすら勉強面では見放されていた近藤は(キ一一巻一一八頁)、墨谷高にはとても進学できないだろう。もっとも、たとえ進学できる成績であっても、丸井がいる墨谷高に近藤が行きたがるとはとても思えないが。

 

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