トップ野球少年の郷第60回
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第五章 墨谷第二中学校 イガラシキャプテン編(キャプテン 九〜二二巻)−3

@墨谷二中×金成中(地区予選四回戦)球場=高野台球場

 墨谷二 6?=?
 金 成 00=0 (墨二の二回コールド勝ち)
 勝=近藤 負=小池 本=近藤(小池)

 夏の地区予選が開幕。墨二にとっての初戦の相手は二年前に戦った金成。かつてと同じように墨二を調べ尽くして戦う金成だったが、かつての強豪も、もう墨二の敵ではなかった。
 墨二は、この年から五番に抜擢された近藤の満塁ホームランなどで初回に六点を先制した。守っても近藤の速球は金成打線を全く寄せ付けず、墨二の二回コールド勝ちとなった。

 A墨谷二中×?中(地区予選五回戦)球場=?
 B墨谷二中×?中(地区予選準々決勝)球場=?

 A、B共に近藤がノーヒットノーラン。それ以外は不明。

〈検証〉その後の金成

 地区予選の初戦、墨二は金成と対戦した。墨二にとってはこれが初戦だが、何回戦かは不明。ただし、準決勝までの試合数が三試合ということが墨二の生徒の発言でわかり(キ一二巻一三八頁)、これは前年の試合数と同じなので、前年と同様に四回戦からの登場と認定し、従ってこの金成戦は四回戦とする。ただし、青葉は三回戦に登場しており(キ一二巻一四四頁)、墨二が四回戦から登場とすると、シード順では青葉の方が下ということになる。青葉も選抜準優勝校なのに、この年の評価は意外に低いようだ。

 ところで金成といえば二年前の谷口キャプテン時代、二回戦で対戦した相手である。当時は徹底したデータ野球が売り物で、地区予選決勝進出常連校だった(キ二巻一三頁)

 この年の金成も、データ野球もさることながら、バカ丁寧なマナーの良さも健在だった(キ一二巻六一頁)。
 データ野球の方では、かつてのように打者の好きなコースに投げることはしなくなっていて、徹底して苦手なコースを突くようになっていた。それは当然だろう。無名時代の墨二なら好きなコースに投げることによって打球の予測ができたが、今の墨二打線にそんなことをしたらメッタ打ちに遭うのがオチだ。

 金成のエース左腕・小池は一回表、墨二のトップバッター曽根の苦手なコースを徹底的に突き、三振に打ち取った(キ一二巻七六頁)。

 しかしその後は、気を引き締めた墨二打線にたちまちつかまり、一死満塁で五番の近藤を迎えた(キ一二巻一〇三頁)。前の打者であるイガラシを敬遠されて怒り心頭の近藤は、小池の変化球をとらえて、左中間への見事なグランドスラムを放った(キ一二巻一一三頁)。入学時には変化球が全く打てなかった近藤だが(キ六巻三七頁)、見事な成長ぶりだ。実は近藤の打撃面での成長は、丸井ですら渋々認めている。五番の座を奪われた小室ですら素直に近藤を褒めているくらいだ(キ一一巻一八一頁)。近藤は五番打者として完全に定着したようだ。

 その後も墨二は猛攻を続け、結局初回は打者一巡で六点を奪った(キ一二巻一一七頁)。一番打者の曽根が打った打球がセカンドの好捕によりダブルプレーとなって、なんとか六点で凌いだ(一二二頁)。この回、曽根は一人で全てのアウトを取られたわけだ。

 一回裏、墨二の先発・近藤は金成打線を全く寄せ付けず、二回コールドの参考記録ながらノーヒットノーランを達成(キ一二巻一三八頁)。思わぬライバルの出現により、近藤は投手としても素晴らしい成長を遂げたのだ。このライバルについては後に検証しよう。
 前述したとおり、墨二が二回コールドで圧倒し、金成にはかつての強豪の片鱗すら見られなかった。
 もう金成はただの弱小に成り下がったのだろうか?

 実はイガラシもそう思っているフシがあって、曽根が三振に打ち取られた時に小室が、金成のことをもっと調べといた方が良かったんじゃないスか、と言ったときに、イガラシは「金成にはそんな心配はいらんと思っていたが、ちょっとあまくみすぎたかな」と自嘲気味に笑っている(キ一二巻八〇頁)。ナインには(金成を)甘く見るなと檄を飛ばしていたイガラシだったが、そのイガラシ自身が金成を甘く見ていたのだ。

 だが金成は元々、素質のある選手を集めて勝ってきたチームではない。むしろ、非力さをデータや戦術で補ってきたチームだ。そして、地区予選決勝進出常連校だった頃も、青葉の二軍には歯が立たなかった(と思われる)。
 つまり、金成自体は弱くなったわけではない。地区のレベルが上がってしまったのである。その元凶(?)は言うまでもなく、墨二である。それまで青葉の独壇場だった地区予選が、墨二の出現によって大幅にレベルアップしてしまったのだ。金成にとって惜しむらくは、二年前の墨二戦で確実に勝っておけばこんな事態にならなかっただろう。なにしろあの試合では、九回表まで六―一と五点もリードしていたのだ。あのときに墨二を潰しておけば、墨二が覚醒することはなかったのだ。墨二は青葉に対する特訓のおかげで、全国制覇を狙えるチームになったのだから。
 だから、金成がダメチームになったわけではない。それが証拠に、曽根を併殺に打ち取ったのはセカンドの大ファインプレーではないか(キ一二巻一二一頁)。弱小チームがあんなプレーをできるわけがない。

 そしてもう一つ。墨谷高OBの田所が翌年の墨谷高新入部員のスカウト活動をしたが、その中に金成中出身の高橋と鳥嶋をリストアップしている。田所によると、この金成中出身の二人は即戦力間違いなしだそうだ(プ二一巻九〇頁)。年度別に言うと、この高橋と鳥嶋はこの年の金成のメンバーに入っている。つまり、墨二には歯が立たなかったとはいえ、この時の金成のメンバーには逸材もいたのだ。残念ながらこの試合ではその実力を発揮できなかったようだが……。

 さらに田所がこの二人を「即戦力」と言っているところを見ると、スケールの大きい選手ではなく、金成らしくねちっこくて守備のいい実戦向きの選手だったと思われる。ただし、墨谷高新入部員の中に金成のユニフォームを着た者がいなかったから(プ二一巻一四七頁)、どうやらこの二人は墨谷高には進学しなかったようだ。
 墨二は金成を破ったあと、五回戦、準々決勝いずれも近藤のノーヒットノーランの快投(おそらく二試合ともコールド)で準決勝に進出した(キ一二巻一三八頁)。

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