トップ野球少年の郷第61回
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第五章 墨谷第二中学校 イガラシキャプテン編(キャプテン 九〜二二巻)−4

〈検証〉覚醒した怪物・井口

 話は前後するが、春の選抜決勝戦が終わった後、OBの丸井と加藤が墨二にやってくる(キ一一巻一四九頁)。このとき、墨谷高校に進学しているはずの加藤はなぜか丸井と同じ朝日高校の制服を着ている。しかも、二人とも既に夏服だ。春の選抜決勝戦の日なのだから、まだ四月なのに。ちなみに、墨谷高校の制服は、学ラン、スラックス、帽子のいずれも黒だが、朝日高校のそれらは全てグレーだ。そして加藤は中学時代に引き続き、丸井に対して敬語である。もう丸井はキャプテンではないのだから、タメ口でいいのに。ちなみに、丸井が墨谷高に編入して再びチームメイトになってからは、タメ口に戻っている。

 二人はある秘密を持ってきたのだが、丸井はあえてそれを封印しようとした(キ一一巻一五二頁)。それは選抜を棄権した上に練習時間が制限されていて(キ一一巻一四七頁)、青葉を破って選抜優勝を果たした和合の出現も重なって、イガラシにショックを与えないために隠しておこうとしたのだ(キ一一巻一五三頁)。

 じゃあ二人は一体なにしに来たのだろう?本当はイガラシに秘密を教えるつもりで来たのではなかったのか?ひょっとしたら学校に来るまでは教えるつもりでいたのかも知れないが、どこかの店で和合が青葉を破ったのをテレビで見て、丸井が考えを変えたのかも知れない。

 しかし、バッティング好調の近藤が、調子に乗っていたことに丸井が腹を立て、つい口を滑らせてしまう(キ一一巻一八二頁)。それが元で結局イガラシに秘密を教えることになった(キ一一巻一八五頁)。
 丸井と加藤が持ってきた秘密というのは、二年前に対戦した江田川の左腕・井口のことだった。井口といえばイガラシとは小学校時代の同期である。この井口が一年生だった二年前、墨二は楽勝と思われた江田川に大苦戦し、辛くも逆転サヨナラ勝ちを収めたのは第一章で検証した通り。大苦戦の原因は、墨二打線が井口を全く打てなかったことだ。

 その井口が二年生の時の戦績は全く不明。スランプだったのか伸び悩んでいたのか。少なくとも二年生時の井口は、墨二や青葉の敵ではなかった。

 しかし、三年生になった井口はとんでもない成長を遂げていると丸井がイガラシに教えた(キ一一巻一八七頁)。そこで丸井とイガラシは井口を見に行くことにした。でもなぜ、加藤も一緒に行かないのだろう。一体なんのために加藤は来たのか。一人残された加藤が不憫に思える。

 それはともかく、丸井とイガラシは自転車で河川敷にある江田川のグラウンドに行った(キ一一巻一八九頁)。ん?イガラシはたしか徒歩通学だったはずだぞ。イガラシが乗っているのは誰の自転車なのだろう。まさかイガラシが自転車をパク……、いやいや、そんなはずはない。それはともかく、ブルペンで見た井口は二年前とは別人だった。

 井口の速球は近藤よりも速く、ノーコンは解消し、しかも変化球まで投げるようになっていた。しかも丸井によると、左打者に弱いという欠点も克服しているという(キ一一巻一九四頁)。変化球にはカーブとシュートがあって、特にシュートは直角に曲がる(ように見える)ほど鋭い(キ一一巻一九五頁)。

 井口の速球は、近藤が何歩か前から投げたときと同じ速さだった(キ一二巻二三頁)。このことは後日、対井口用の特訓をするときに、近藤を仮想井口に見立てたことで判明した。普通なら一歩前へ出ただけでも相当体感スピードが変わるのに、近藤が何歩か前に出てやっと同じスピードというのも凄い。一体井口の速球は何キロぐらい出ているのだろう。ただ、近藤よりも球は軽いそうだ(キ一二頁一五頁)。谷口が一年生時の井口の球を打ったときは重いと感じたようだが(キ一巻一二八頁)。

 また、この特訓は思わぬ効果も生み出した。この屈辱的な扱いに発奮した近藤が、凄い成長を遂げたのだ。対金成戦で近藤のピッチング練習を見た毎朝新聞のカメラマンが目を丸くしていた(キ一二巻六五頁)。どうでもいいことだが、この特訓で墨二グラウンドのホームプレートが固定式ではないことがわかった(キ一一巻二六頁)。

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