トップ野球少年の郷第69回
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第五章 墨谷第二中学校 イガラシキャプテン編(キャプテン 九〜二二巻)−12 

 I墨谷二中×南海中(全国大会準決勝)球場=高野台球場

 南 海 000 000 001=1
 墨谷二 000 020 00X=2
  勝=近藤 負=二谷

 準決勝で墨二は南海と対戦。墨二の先発の近藤と、南海の左腕エースで変化球投手の二谷との投手戦が続いた。
 共にノーヒットのまま迎えた五回裏の墨二の攻撃、イガラシ(兄)の初ヒットを足掛かりに、イガラシ(弟)のレフトへの犠牲フライと、松尾のレフト前タイムリーで二点を先制した。

 この松尾のタイムリーの際に三塁ランナーの近藤と捕手の片岡が激突。これが元で両チームの大乱闘に発展し、近藤を殴った片岡が退場処分となった。

 しかし、この激突の際に近藤の右人差し指の爪が剥がれ、近藤は降板せざるを得なくなった。
 やむなく前日の北戸戦で疲労したイガラシ(兄)が六回からリリーフ。巧みなピッチングで六、七回をノーヒットに抑え、八回に初ヒットを許すもなんとか無失点で切り抜けた。だが、イガラシ(兄)はもう限界で、近藤を再びマウンドに戻すしかなかった。

 近藤は丸井から谷口の話を聞かされ発奮し、指をかばわずに投球した。九回表、粘る南海は一番打者のスクイズで一点を取るも反撃はここまで。
 墨二は決勝に進出した。

 〈検証〉南海との準決勝

 準決勝は、準々決勝で桜ヶ丘を破った南海との対戦(キ一六巻一二八頁)。出場回数は不明だが、たびたび全国大会に出場しているそうだ(キ一九巻二一頁)。では、どの県の代表だろう。

 オールドファンは「南海」といえば南海ホークスを思い出すだろう。現在の福岡ソフトバンクホークスの前身だ。南海ホークスは大阪が本拠地で、親会社は現在も大阪府と和歌山県を結んでいる南海電気鉄道だ。私事で恐縮だが、筆者は南海沿線で生まれ育った。ではこの南海中学は大阪府か和歌山県の学校か?しかし、南海中の選手には関西訛りは一切ない。ましてや南海電鉄が経営している学校でもないだろう。
 ちなみに江戸時代以前の地方区分である南海道とは、現在の四国、和歌山県、淡路島を指す。しかし、それらの地域の訛りもない。残念ながら、南海中はどの辺りの学校かはやはり不明だ。
 試合は南海の先攻で始まった。墨二の先発は当然、近藤。イガラシは前日の北戸戦で疲労が激しく、マウンドに立てる状態ではない。

 近藤は北戸戦で打たれたショックをまだ引きずっていたが(キ一九巻二七頁)、初回を三者凡退で退けると自信を取り戻し、五回まで南海打線をノーヒットに抑える好投を見せた。
 一方の南海のエースは変化球が得意の左腕・二谷だ。あれ?準々決勝の南海のマウンドにいたのは右投手だったぞ(キ一八巻一三三頁)。あの投手は控えだったのだろうか。でも、背番号は1に見えるし……。でも、顔が全然違うので(キ一八巻一三五頁)、きっと控え投手なのだろう。背番号はたまたま1に見えただけで、別の番号に違いない。

 準々決勝まで失点一で来ている二谷は(キ一九巻二三頁)、得意の変化球で墨二打線を翻弄し、四回までやはりノーヒットの好投で、五回裏の墨二の攻撃を迎えた。
 先頭打者の四番・イガラシは二谷の変化球を巧くとらえて三遊間を破るチーム初ヒット(キ一九巻八九頁)。
 五番の近藤は手堅く送りバント(キ一九巻九二頁)。キャッチャーの片岡が捕ってファーストへ送球。しかしこの送球が近藤の後頭部に当たり、悪送球となって無死一、二塁とチャンスが拡がった(キ一九巻九三頁)。送球をぶつけても謝ろうとしない片岡に向かって、近藤が「やい、そこのハナの下の長いの!」と実に面倒くさい罵り方をしている(キ一九巻九五頁)。でも、たしかに片岡は鼻の下が長い。
 無死一、二塁で六番の小室は送りバントを確実に決め、一死二、三塁となった(キ一九巻一〇〇頁)。丸井は「それにしても、つづけて初球バントとはおもいきったことをやったもんだな」と感心しているが、このケースで送りバントはセオリー通りだろう。

 しかしここで丸井は、三塁ランナーのイガラシが肩で息をしていることに気付いた。そこでベンチの墨二ナインに、作戦タイムのふりをしてイガラシを休ませろ、と指示すると、なんと墨二ナインが一斉にベンチを飛び出した(キ一九巻一〇一頁)。もちろん、イガラシの元に行くのは一人だけでよく、曽根がその役目を負った。イガラシと曽根は作戦を練るふりをして疲労の回復を待ったが、そのときイガラシが、曽根の今日の朝食がナットウだということを見抜いた(キ一九巻一〇二頁)。イガラシも疲れている割には結構余裕がある。
 バッターは七番の佐藤。イガラシはスクイズのサインを出すが、南海は満塁策を取り、一死満塁となった(キ一九巻一〇四頁)。

 八番の慎二は2―0と追い込まれるも、三球目をジャストミートし、レフトへ飛距離充分のフライ(キ一九巻一一四頁)。三塁ランナーのイガラシはタッチアップするが、疲労のためクロスプレーとなり、辛くも先制のホームを踏んだ(キ一九巻一一六頁)。このとき、二塁ランナーの近藤が隙を見てなんと三塁を落とし入れた(キ一九巻一一六頁)。

 一死一、三塁でバッターは九番の松尾。三塁ランナーの近藤は調子に乗って盛んにリードを取り、危うく牽制球で刺されそうになった(キ一九巻一二一頁)。かつて、阪神タイガースの史上最強助っ人、ランディ・バースがまさかの盗塁を決め、調子に乗った挙げ句、牽制球で刺され、阪神ファンの大爆笑を誘ったシーンを思い出す。
 松尾の打球は三遊間を破った。万歳してホームに戻ってくる近藤(キ一九巻一三一頁)。ところが喜びすぎたために、ホームはクロスプレーになった(キ一九巻一三二頁)。慌てた近藤はヘッドスライディング。近藤はキャッチャーの片岡と激突し、なんとかホームインして二点目を取った。(キ一九巻一三三頁)。

 このとき、鼻血を出して逆上した片岡は、なんと近藤をグーで殴り、それがきっかけで大乱闘になった(キ一九巻一三四頁)。バットを持ち出しての大乱闘に、丸井も応援団を引き連れて参戦(キ一九巻一三五頁)。前代未聞の大乱闘だ。プロ野球以上、メジャーリーグ並みの乱闘かも知れない。少なくとも、高校野球では絶対に起きない。結局、最初に手を出したかどで、片岡が退場になった(キ一九巻一三九頁)。片岡の退場は当然だが、彼一人を退場させるのは理不尽と思えるほどの大乱闘だった。

 乱闘が終わって、グラウンドに降りていた丸井をベンチの上に上げようと丸井のケツを押していた近藤が突然、その手を離した(キ一九巻一四二頁)。ベンチ上から落ちてしまった丸井は「テ、テメ、なんのうらみがあって」と怒るが、近藤は丸井に対しての恨みなど腐るほどあるだろう。
 だが、近藤が手を離したのは、なにも丸井に対する恨みからではなかった。実は片岡と激突したとき、右手人差し指の爪を剥がしてしまったのである(キ一九巻一四三頁)。近藤の続投が不可能となったため、この不利な状況を南海に悟られまいとし、六回からイガラシが予定通りリリーフする、ということにした(キ一九巻一四六頁)。
 結局、この回はダブルスチールを決めるも(キ一九巻一五五頁)、曽根がレフトフライに倒れて、二点止まりとなった(キ一九巻一五八頁)。 

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