トップ野球少年の郷第75回
目次>野球少年の郷第75回    <第74回へ戻る  >第76回へすすむ

第六章 墨谷高等学校 谷口三年生編(プレイボール 一九〜二二巻)

〈検証〉シーズンオフ

 秋季大会が終わり、墨高野球部もシーズンオフに入った。高校野球の規則では、一二月初めから三月中旬くらいまでは対外試合が禁止されている。
 ここで、墨高野球部の伝説的な部長が『プレイボール』に初登場した(プ二〇巻一五四頁)。
 この部長は野球のやの字も知らない野球オンチであり(プ七巻一八〇頁)、墨高の試合に一度もベンチに入らなかったことから、その存在はベールに包まれていた。普通、責任教師なら野球のことはわからなくてもベンチにぐらい入るだろう。試合中に事故でも起きたらどうするつもりだろうか。墨高に編入してきた丸井は、野球部に入部して一ヶ月ぐらいはたつだろうに、部長の存在すら知らなかった(プ二〇巻一五五頁)。
 なにしろこの部長は野球部部長でありながら、「甲子園」という言葉すら知らない、凄まじい野球オンチだった(プ二一巻六〇頁)。いや、野球オンチで済まされる話ではない。「甲子園」という単語を知らないのだから、日本人としての常識が欠如しているのだろう。

 そんな部長が、谷口に提案をした。最近、野球部員の成績が下降気味なので、毎日二時間の勉強会を開こうというのだ(プ二〇巻一六六頁)。野球では役に立てないから、せめて勉強で、というわけだ。まるでボンクラ役人がたまには仕事しなきゃと急に思い立って、やらなくてもいい改革をするようなものだ。

 この勉強会によって、練習は一時間二〇分に短縮される。おかげでせわしい練習内容になったようだが、むしろ効率の良い練習を体験できたのではないか。ただ、ナインには時間通りに練習をこなすことに満足する傾向が出てきたようで(プ二一巻五三頁)、かなり荒れたプレーをするようになった(プ二一巻六五頁)。それに、せっかくOBが借りてくれた河川敷のグラウンドも、一時間二〇分では使用できない有様だった。

 そこで、谷口は練習時間を二時間に延ばすように部長に掛け合った(プ二一巻五六頁)。部長は最初、勉強会の時間を削る要求だと誤解して認めようとしなかったが、二時間の勉強会は守るつもりだとわかると、谷口の申し出を了承した(プ二一巻五八頁)。おかげで部長は、通勤に二時間かかる所沢に住んでいたから、帰宅が一一時になってしまった(プ二一巻八六頁)。そんな時間まで付き合うなんて、野球オンチであっても、部員思いのいい部長だ。
 その頃、OBの田所は江田川中の井口を見つけ(プ二一巻二四頁)、翌春の新入生のスカウト活動に入った(プ二一巻三六頁)。どうでもいいことだが、田所は前年に高校を卒業した未成年なのに、部室でタバコを吸おうとしていた(プ二一巻三一頁)。そういえば送別会では手酌でビールを呑んでいる(プ二〇巻三七頁)。もっとも、未成年の飲酒・喫煙なんて珍しくもないが。

 田所がスカウトした中学生の中で、井口は入学確実となっていた(プ二一巻八九頁)。井口は勉強があまりできないイメージがあるが、丸井が滑ったほどの墨高に合格できるくらいの成績は残しているようである。
 また、リトルリーグで四番を打っていたという根岸は、半田が通っていた西武台中出身だった。だが半田は根岸のことを知らなかったが、それは当然で、根岸は西武台中野球部があまりにもだらしがなかったので入部しなかったのだ(プ二一巻九〇頁)。ただ、この会話から、草野球出身の半田は中学時代、野球部に在籍していたことがわかる。でも、根岸が本当に墨高野球部に入部したかどうかは不明だ。

 あと、田所のスカウトリストには墨谷二中の選手が載っていなかったが、田所はわざわざ勧誘する必要もないと考えていた。丸井はこのことを田所に質問したにもかかわらず、誰が墨高に進学するかをちゃんと知っていた。知っているのになぜ質問するのだろうか。丸井は墨高に進学するのは「イガラシと、ほか2名だ」と言っているが(プ二一巻九二頁)、実際に墨高野球部に入部した墨谷二中出身者はイガラシと久保の二名だけだった。あと一名はどうしたのだろう。もっとも、このスカウト活動は二学期中に行われていたと考えられるので、一名は墨高を滑ったと考えられる。ただし、イガラシと同級生だったレギュラーは久保と小室だけだったので、あと一人は小室だったと考えられる。小室は墨高を滑ったのだろうか。それとも、他の高校がオイシイ条件を提示して、それに目が眩んだのだろうか。

 期末試験が終了し、部員の成績アップが確認されたので、勉強会は終了になった(プ二一巻一一九頁)。ちなみに鈴木の成績は前期(一学期説と中間試験説がある)の国語が3、数学が2、英語が2、科目はわからないが2がもう一つあった(プ二一巻一一四頁)。相当悪い成績であり、留年説も信憑性を帯びている。
 冬を越えて、新入生を迎える時期がきた。
 墨高野球部には、墨谷二中出身のイガラシに久保、江田川中出身の井口、リトルリーグの優勝投手である片瀬ら、一一名の有望な新入部員が入部してきた(プ二一巻一四五頁)。またまたどうでもいいことで申し訳ないが、谷口らと井戸端会議をしている谷口の同級生は、墨谷二中×和合中戦で丸井にパン一にされた応援団長とそっくりだ(プ二一巻一三二頁)。

 墨高野球部の中でも、井口はたちまち目立つ存在となる。河川敷をランニング中、暴走ライダーに石を投げつけたり(プ二一巻一六五頁)、先輩の練習の見学中にボールを勝手に握ったり(プ二一巻一七五頁)、バッティング練習中はバットを勝手に握っていた(プ二一巻一八七頁)。これを見た丸井がなんとバットで井口に殴りかかろうとした。谷口は、暴力はいかん、口で言えばわかる、と丸井を止めた。丸井は「い、いってわかるやつならボクだって……」と言い訳をするが「わからなければほっておけばいい。後悔するのは本人なんだ」と谷口が言っている(プ二一巻一八八頁)。

 さらに谷口は井口を呼び「なんども同じ注意はしないぞ。いいな!」と一喝している(プ二一巻一八九頁)。キャプテンとして、これほど堂々たる姿勢を見せたのは見事としかいいようがない。やはり谷口は最高のキャプテンだ。
 ちなみに、井口は小学生時代、先生を殴って停学を食らっているが(プ二一巻一六九頁)、その井口ですら谷口の迫力に怯んでいるのだから、墨谷二中で初めてキャプテンに就任した頃に比べると隔世の感がある。ただ、井口が停学を食らったのは小学生時代で、義務教育の小学校に停学があったのかは疑問だが……。

inserted by FC2 system