トップ野球少年の郷第78回
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第七章 墨谷第二中学校 近藤キャプテン編(キャプテン 二二〜二六巻)

 ☆戦績

  @選抜大会一回戦 ○墨谷二 2―1 南ヶ浜 ● 勝=近藤 負=新浜
  A選抜大会二回戦 ○墨谷二 ?―?  ?  ● 勝=近藤 負=?
  B選抜大会準々決勝●墨谷二 2―3 富 戸 ○ 勝=日吉 負=佐々木

 ☆主なメンバー
  墨谷二中
   近藤茂一(三年)投手・右投右打 キャプテンでエースの四番。
   牧野(三年)捕手・右投右打 キャッチャーにコンバート。三番打者。
   佐藤(三年)一塁手・左投左打 五番に抜擢。
   松尾直樹(二年)二塁手・右投右打 セカンドにコンバート。二番打者。
   イガラシ慎二(二年)三塁手・右投右打 サードにコンバートのリードオフマン。
   曽根(三年)遊撃手・右投右打 緊急時にはキャッチャーも務める。
   滝(一年)遊撃手・右投右打 背番号7ながら控えのショート。
   鳥井(二年)中堅手・右投右打
   安井(一年)右翼手・右投右打 一年でライトのレギュラー。
   橋本(一年)一塁手・左投左打 気弱な性格。愛称はゾウ。
   佐々木(一年)投手・左投両打 リリーフにしてスイッチヒッター。愛称はJOY。
   赤津(一年)控え・左投左打 本来は外野手だが、ファーストもこなす。
   田中(一年)控え・右投右打 強肩で内野の控え。投手テストも受けた。
   山下(二年)控え・右投右打
   青木(二年)控え・右投右打
  他の学校
   新浜(三年)投手・左投左打 南ヶ浜の左腕変化球投手。
   日吉(三年)投手・左投左打 富戸のリリーフ変則左腕投手。
   杉本(三年)投手・右投右打 富戸の速球派リリーフにして強打者。

 ○近藤、墨谷二中のキャプテンに就任

 イガラシの後は、近藤がキャプテンの任に就いた。
 近藤はイガラシ流とは一八〇度違う方針で、大勢の新入部員を育てようとした。下を切り捨て、少数精鋭でシゴクのではなく、全員にチャンスを与える方法だ。
 そのため落伍者を出すこともなく、佐々木などの新戦力を得て、来たる春の選抜を迎えた。

 〈検証〉近藤墨二、春の選抜に向けて始動

 イガラシが次期キャプテンに選んだのは近藤だった。この人選には誰もが驚いた。近藤本人は予測していたそうだが(キ二三巻一六三頁)、自分勝手で人望があるようには見えない近藤がキャプテンに向いているとは思えない。
 しかし慎二によると、イガラシは近藤以外にキャプテンが務まる者がいないと考えていたようだ(キ二二巻一九五頁)。牧野はピリピリしすぎているし、曽根や佐藤は神経が細すぎるので、前年度優勝校としての重圧には耐えられないだろうというわけだ(キ二二巻一九六頁)。もっとも、近藤の神経は「細い」のではなく「無い」と思われているが……。

 翌春になって新入生を迎え、春の選抜へ始動した。ここで近藤は、イガラシ流とは一八〇度違う育て方を見せた。
 ランニングなどで簡単にふるい落とすことなく(キ二三巻三六頁)、丁寧にテストを重ねて人材を発掘しようとした。練習時間も前年は夜の一〇時までやっていたのが、新入生が入ってからは日が落ちる前に切り上げるようになった(キ二三巻一七八頁)。新入部員が入る前は七、八時、時には九時過ぎにもなっていたようだが(キ二三巻二〇頁)、一年生が入ってからは「おかあちゃん心配するさかい」と近藤が早く帰るように言っているほどだ(キ二三巻一一七頁)。

 近藤の方針に牧野や佐藤は不満を抱いていた。あまりにも甘すぎる、と。それに、春の選抜には間に合わない。しかし近藤は、前年の選抜棄権の悲劇を繰り返したくないと考えていた(キ二三巻一四三頁)。イガラシのようなやり方だと、たしかに手っ取り早くていいが、その反面、多くの部員を犠牲にしてしまう。
 そして、近藤流のおかげで、潰されずに済んだ有望部員がいた。左腕投手でスイッチヒッターの佐々木である。佐々木は新入部員手続きの時、墨二野球部の厳しさを牧野からかまされて、尻尾巻いて逃げ出した(キ二三巻二五頁)。しかし近藤が厳しい練習を課さなかったために出戻り部員が増え続け、佐々木もその一人だった(キ二三巻八三頁)。もしイガラシ流なら、佐々木はそのまま野球を辞めていただろう。

 着ているシャツから「JOY」と呼ばれた佐々木は、マウンドからバックネットの板塀にぶつけ、マウンドまで跳ね返すほどの速球投手だった(キ二三巻七九頁)。牧野や佐藤でもこんな芸当は無理であった(キ二三巻八七頁)。おかげで佐々木は先輩からも一目置かれる存在となった。もっとも曽根はJOYの名前を「川口」と思い込んだこともあったが……(キ二三巻一二二頁)。

 この近藤の方針の裏には、父親の助言があった。近藤の父・近藤茂太はノンプロ(何度も何度もしつこくて申し訳ないが、社会人野球のこと)で有名だったほどの野球通で(キ二四巻二〇頁)、そんな父親が近藤に、自分のことよりも後輩を育てよ、とアドバイスしていたのだ(キ二四巻二五頁)。

 この近藤流は、中学野球としてはイガラシ流よりもずっと優れているだろう。この時期の少年には、勝つためにシゴクよりも長所を伸ばす方がずっと大切だ。イガラシはたしかに墨二を最強チームに仕上げたが、潰れた選手もいたかも知れない。もし佐々木がもう一年早く墨二野球部に入部していれば、二度と野球をやらなくなっていただろう。イガラシ流はプロのやり方だった。プロなら実力無き者は容赦なくふるい落とされるのは当然だが、中学野球ではやるべきではないだろう。そういう意味で、一般的には不適格者だと思われているが、近藤は理想的なキャプテンだと言える。

 ひょっとしてイガラシは、自分ができなかったことを近藤に期待してキャプテンに指名したのかも知れない。イガラシはクールかも知れないが、その分冷静に人を見る目がある。いつまでもイガラシ流ではだめだ。墨二をより強いチームにするには近藤をキャプテンにするしかない。そう考えると、イガラシが次期キャプテンに近藤を指名したのも合点がいく。

 近藤の元で、佐々木、橋本(愛称はゾウ)、安井、滝といった新入生たちが育った。
 近藤自身もカーブをマスターしてピッチングの幅が拡がり(キ二二巻一四三頁)、キャッチャーにコンバートした牧野との新バッテリーで春の選抜を迎えた。

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