トップ野球少年の郷第80回
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第七章 墨谷第二中学校 近藤キャプテン編(キャプテン 二二〜二六巻)

A墨谷二中×?中(選抜大会二回戦)球場=?

 完勝ではないが、墨二がなんとか勝って準々決勝進出。

B墨谷二中×富戸中(選抜大会準々決勝)球場=高野台球場

 墨谷二 100 010 000=2
 富 戸 000 011 10X=3
  勝=日吉 負=佐々木

 準々決勝に進出した墨二は、伊豆の名門で大会最高打率を誇る富戸と対戦した。
 初回、近藤のタイムリーヒットで一点を先制した墨二だったが、四回裏の守備の時にファーストの佐藤が負傷退場。一年生の橋本に代わる。

 五回表、墨二は近藤の長打で一点を追加するが、富戸のラフプレーにより牧野が負傷退場、さらに頭に来た近藤の報復プレーが悪質だと判断されて、近藤が退場処分を受ける。
 五回裏から一年の佐々木がリリーフ登板、牧野の代わりに曽根がマスクを被り、ショートには一年の滝が入るという、非常事態となった。
 一年の佐々木にとっては強力打線の富戸はやはり荷が重く、ファーストに入った橋本のエラーなどもあって(その後、一年の赤津に交代)、五、六、七回に一点ずつ与えて二―三と逆転を許した。
 九回表、墨二の最後の攻撃は、この回から登板の杉本を攻め、一死満塁のチャンスで近藤に代わって四番に入っている佐々木。左打席に入った佐々木が打った当たりはセンター前へ。しかしセンターの竹安がダイレクトキャッチ、二塁に転送されてダブルプレー。墨二は準々決勝で姿を消した。
 夏春連覇はならなかったが、墨二は近藤主将を先頭に、夏に向かってスタートを切った。

 〈検証〉選抜準々決勝、強打・富戸との対決

 墨二は一、二戦を完勝こそないが勝ち抜き、なんとか準々決勝に進出した(キ二五巻九頁)。なお、二回勝って準々決勝というのは、二年前の選抜出場校数が三二校だった(キ六巻六九頁)ことからの推測だ。この大会での墨二の前評判は、防御率bPの近藤(キ二五巻四六頁)を擁している割には低いようである(キ二五巻八頁)。
 準々決勝の相手は伊豆の名門・富戸である。伊豆というからには静岡県の学校だろう。富戸ナインが使う言葉は語尾に「ら」が付くことが多い。

 富戸は強打が売り物で、大会最高打率を誇る。しかし柱になる投手が不在で、リリーフを次々継ぎ込んでくる(キ二五巻一五頁)。近藤と富戸の強力打線の激突となりそうだ。
 先攻は墨二で、富戸の先発は一応(?)エースの鈴木。初回、一番の慎二がセンター前ヒットで出塁(キ二五巻二一頁)。

 二番の松尾が送って一死二塁と早くも先制のチャンス(キ二五巻二六頁)。
 三番の牧野はレフト前ヒットで一死一、三塁、迎えるバッターが四番の近藤と絶好のチャンスを迎えた(キ二五巻二九頁)。

 近藤はレフトフェンス直撃のシングルヒットで先制点を挙げ、なおも一死一、三塁と追加点のチャンス(キ二五巻三五頁)。
 しかし五番の佐藤はスクイズを打ち上げてしまい併殺でチェンジ(キ二五巻四〇頁)。追加点はならなかった。
 だが、待望の先制点を挙げ、その裏を〇点で抑えようと近藤はナインにハッパを掛けた(キ二五巻四一頁)。富戸はこれまで大量点を取って勝ち進み、リードを許したことがないから、リードされた状態になると浮き足立つだろうと計算したのだ(キ二五巻一五頁)。近藤もキャプテンになって、相手の心理を読むのが上手くなったようである。

 一回裏、近藤は一死後から二番打者にかすっただけの死球を与え(キ二五巻五一頁)、三番打者の時に盗塁を許した(キ二五巻五五頁)。
 三番はセンターへ大きなフライを打つが、鳥井がなんとか捕って2アウト(キ二五巻六〇頁)。
 二死二塁で四番のキャッチャーを迎えた。大会屈指の強打者である。その割には名前は不明だが。防御率bPの近藤との対決は、今大会もっとも注目を集めるものではないか。このとき牧野が心の中で「近藤をそんじょそこらのピッチャーといっしょにするなよ」と心の中で思っているが(キ二五巻六三頁)、牧野が近藤の実力を認めているとわかると、なんとなく嬉しい。四番が放った打球はレフトへあわやホームランの当たり。しかしレフトがジャンプ一番、ホームラン捕りでなんとか無得点で切り抜けた。

 それにしてもレフトの一年生はよくぞあの打球を捕ったものだ。もしスタンドに入っていれば2ランで逆転である。これだけのプレーをしたのに、残念ながら名前は不明だ。したがって、本書のメンバー表には載っていない。選抜前の練習ではサードに入っていて、近藤に「イガラシ(慎二)の後釜間違いなしの男」と言わしめている(キ二五巻一七三頁)。なお、クチビルがアニメ『サザエさん』に登場する穴子さんに似ている。

 試合は一―〇で墨二リードのまま、四回裏の富戸の攻撃を迎えた。この回からミート打法に切り替えた富戸は、先頭の六番打者が三遊間を破るヒットで出塁(キ二五巻七二頁)。七番が送って一死二塁(キ二五巻七五頁)、さらに八番の石井がサード強襲のヒット、二塁ランナーは動けなかったが、一死一、二塁とチャンスが拡がった(キ二五巻八〇頁)。

 ここで富戸は九番で投手の鈴木に代えて代打の石井(なぜか八番ショートと同じ名前)を送り込んできた(キ二五巻八一頁)。ここまで墨二を一点に抑えているとはいえ、完投は最初から考えていなかったようである。石井は一塁線へのライナーを放つが、佐藤が横っ飛びでダイレクトキャッチ。さらに一塁ランナーが飛び出していたので、素手でベースにタッチ。スライディングで蹴られて球を落としてしまったが、その前のタッチが認められてダブルプレーとなった(キ二五巻八七頁)。しかし、このプレーには大きな代償を負った。佐藤が素手をスパイクで蹴られたため、全治一〇日間のケガをしてしまったのである(キ二五巻九〇頁)。佐藤は一回戦では活躍できなかったとはいえ、五番打者だけにこの欠場は痛い。佐藤の代わりには橋本(ゾウ)が入ることになった(キ二五巻九一頁)。

 それにしても四回まで無得点とはいえ、富戸の打球はいい当たりばかりで、さすがに大会最高打率だけのことはある。でも、近藤もちょっと打たれすぎの感がある。一年の時の方がよく抑えていたような気がするのだが。
 そこで調べてみると、前年の全国大会一回戦の白新戦以来、なんと近藤の奪三振シーンが一度も無いのだ。最後に三振を取ったのは、練習試合の朝日高戦、丸井が打者の時だった(キ一五巻七四頁)。公式戦では、地区予選決勝の江田川戦で最後の打者を三振に切って取った時(キ一四巻二〇二頁)以来、奪三振は記録していない。もちろん、収録以外のところでは三振も取っているのだろうが。近藤といえばバッタバッタと三振に切って取るイメージが強かったのだが、二年の全国大会以降、そのイメージが薄れたと思っていたら、やはり三振を取ったシーンがなくなっていたのだ。今選抜一回戦で、打たせて捕る近藤の投球術を褒めたが、やはり相手打者を三振でなぎ倒す姿の方が近藤には似合っている。

 五回表の墨二の攻撃、富戸のマウンドには左のアンダースロー・日吉が上がった(キ二五巻九二頁)。この回トップの一番・慎二は、タイミングを外す日吉の投球に対応できず、ピッチャーゴロで1アウト。
 二番の松尾はタイミングを外されながらなんとかセンター前へポテンヒット(キ二五巻一〇三頁)。
 三番の牧野が打った当たりはライトフェンス直撃の長打コース(キ二五巻一一一頁)。一塁ランナーの松尾は一気にホームを突くが、キャッチャーの体当たりのようなブロックでタッチアウトとなった(キ二五巻一一三頁)。佐藤へのスパイクに続く、富戸のラフプレーで、近藤は怒った(キ二五頁一一四頁)。この近藤の怒りが、墨二の運命を大きく左右することになる。

 二死二塁で四番の近藤。怒りに燃えた近藤のバットは日吉のスローボールを叩きつけ、打球はレフトフェンスを直撃した(キ二五巻一一九頁)。二塁ランナーの牧野はホームへ突っ込むが、またもや強固なブロックに遭ってしまう(キ二五巻一二一頁)。それ以前に、レフトオーバーの当たりなら二塁からは楽々生還できると思うのだが……。それはともかく、このブロックによりホームを触る前にタッチされるが、走塁妨害が認められて墨二は二点目を取った(キ二五巻一二二頁)。

 問題はこの後である。ホームへの送球の間に三塁を目指した近藤だったが、ベース上に足を置いて妨害しようとしているサードに腹を立て、サードの足を蹴飛ばすようなスライディング(キ二五巻一二三頁)。さらにサードが倒れたことにより、送球が外野に抜けたのを見て近藤はホームへ。ここでも走塁を妨害しようとしているキャッチャーに体当たりのを敢行(キ二五巻一二四頁)。ホームインで三点目と思われた。
 しかし球審は守備妨害でアウトを宣告。しかもそれだけではない。なんと近藤を退場処分としたのだ(キ二五巻一二五頁)。球審はこの退場理由を、牧野の場合は走塁妨害を認めたので一点をあげたが、その走塁妨害を体当たりで仕返しをするなんて、守備妨害の罰だけでは済まされない、と説明した(キ二五巻一二六頁)。

 しかし、この退場処分は少々乱暴ではないか。たしかに近藤は体当たりをしているが、プロ野球の外国人選手などでは日常茶飯事のプレーだ。これが中学野球道にもとる行為だとするならば、厳重注意程度に留めておくべきだろう。富戸の方もラフプレーをしていたのを審判は見ていたのだから、まず富戸に対して注意を行うべきだった。そうすれば近藤の体当たりも未然に防げただろう。それを怠ったのは審判の怠慢ではないか?
 特に学生野球の審判の場合、反則を取り締まることよりも、まず反則をさせないことを優先するべきである。近藤の行為は反則だとは本人が認識していないのだから、まずそれは反則だと教えるべきだろう。退場は最終手段であって、それを反則取締りの目的であってはならない。

 この近藤の行為が退場になるのだったら、前年夏の準決勝、南海戦の方がもっと酷かった。あの時は両軍入り乱れての大乱闘だった。バットで殴っているヤツまでいた(キ一九巻一三五頁)。そんな大乱闘だったのに、退場になったのは最初に手を出した片岡だけだった(キ二五巻一三九頁)。あれだけの乱闘で片岡一人に責任を取らせるのは吊り合いがとれないだろう。近藤の体当たりで退場処分になるのなら、南海戦では乱闘に参加した全員を退場にするか、没収試合にするのが妥当だろう。
 話を元に戻すと、墨二が失ったのは近藤だけではなかった。牧野まで足を痛めてしまったのである。四回裏と五回表だけで、墨二は佐藤、近藤、牧野と、三人の三年生が退場してしまった(キ二五巻一二七頁)。

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