トップ野球少年の郷第81回
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第七章 墨谷第二中学校 近藤キャプテン編(キャプテン 二二〜二六巻)

〈検証〉一年生投手JOY×富戸打線

 退場命令に頭に来た近藤は、試合を放棄すると言い出した(キ二五巻一三〇頁)。そりゃ、近藤の怒りは収まらないだろう。しかし曽根は、一年生に経験を積ませるいいチャンス、と試合続行を提案した(キ二五巻一三一頁)。一人ソッポを向く近藤を尻目に、墨二ナインはグラウンドに散った。
 佐藤に代わってファーストに橋本(ゾウ)、近藤に代わってピッチャーは佐々木(JOY)、牧野に代わって滝が入りショート、ショートの曽根がキャッチャーに廻った(キ二五巻一三三頁)。曽根以外の三年生三人がみんな一年生に代わってしまったのだ。

 五回裏、二―〇と墨二がリードしていたが、富戸の猛打線に佐々木がどこまで耐えられるかが勝敗の分かれ目だった。
 コントロールの定まらない佐々木は、この回の先頭、一番の竹安にいきなりストレートの四球を与えてしまった(キ二五巻一四四頁)。
 二番打者の時に竹安が盗塁(キ二五巻一四七頁)、さらに二番打者にレフト前ヒットを打たれ、無死一、三塁となった(キ二五巻一五一頁)。曽根も初めてマスクを被ったとは思えないと牧野が言ったほどのリードを見せるが(キ二五巻一四九頁)、やはり佐々木には荷が重過ぎる相手のようだ。
 三番打者の時に足でかき回そうというのかダブルスチールを仕掛けてきたが、曽根の二塁送球をショートの滝がカット、ホームに返球して三塁ランナーを刺した(キ二五巻一五五頁)。いやはや、代用キャッチャーと中学一年生とは思えない高度な連係プレーだ。

 一死二塁で三番打者はライトオーバーの二塁打で一点を返した(キ二五巻一五九頁)。
 さらに四番打者のセンター前ヒットで一死一、三塁(キ二五巻一六八頁)。富戸打線は容赦なく佐々木に襲いかかる。
 さらに五番の久保田の時に一塁ランナーが盗塁(キ二五巻一七一頁)。今度は重盗ではなかった。久保田は変化球にタイミングが合わず、ファーストゴロ。しかしこれを橋本がエラー(キ二五巻一七五頁)。三塁ランナーは自重したので点は入らず、一死満塁と場面が変わった。ここで橋本に代えてファーストに本来は外野手の赤津を入れた(キ二五巻一七七頁)。

 一死満塁で六番打者が打った当たりは三遊間へのライナー。さらに追加点かと思われたがサードの慎二がダイレクトキャッチ。三塁ランナーが飛び出していたのでダブルプレー(キ二五巻一八五頁)。なんとかこの回を一失点で切り抜けた。
 六回以降も佐々木の懸命なピッチングが続いたが、六回、七回と一点ずつ取られて遂に逆転を許した(キ二六巻八頁)。
 しかし八回裏の投球は二者を簡単に打ち取った(キ二六巻二七頁)。回を追うごとに調子を上げてきた佐々木は、もはや富戸打線といえども簡単に打ち崩せる投手ではなくなっていた。
 この佐々木のピッチングに、それまでソッポを向いていた近藤も協力態勢に入った。なにしろ退場処分を受けているのに、マウンドに行って佐々木を指導しようとしたほどだ(キ二六巻二八頁)。本来なら退場処分なのだからベンチにも入れない。

 もう振り回していては佐々木を打ち崩せないと悟った富戸は、近藤を攻めたときの要領でミート打法に切り替えた(キ二六頁三四頁)。
 二死無走者から七番打者は左中間へヒット(キ二六巻三九頁)。
 このとき、墨二ベンチに怒鳴り声が聞こえてきた。そう、丸井の登場である(キ二六巻四〇頁)。一回戦といい、準々決勝といい、丸井は試合が終わりかけの時にやってくる。初回から応援していた朝日高時代と違って、やはり墨谷高では時間が取りにくくなっているのだろうか。

 八番の石井の時に一塁ランナーが盗塁、二死二塁となった(キ二六巻四六頁)。八番打者が打った打球は三遊間へ。内野安打にはなったが、ショートの滝がよくグラブに当てた(キ二六巻四八頁)。抜けていれば一点追加されていたところだ。
 九番ピッチャー日吉のところでとっておきの代打・杉本を送ってきた。杉本は高野台球場で大会第一号ホームランを放っている(キ二六巻五〇頁)。
 杉本の打席で一塁ランナーが盗塁して二死二、三塁となった(キ二六巻五六頁)。曽根は五回裏のダブルスチール以外ことごとく走られまくっている。いくら代用キャッチャーでも走られすぎだ。
 杉本が放った打球はライト後方へ。これをライトの一年生・安井がフェンスにぶつかりながらキャッチ(キ二六巻六三頁)。値千金のファインプレーだ。墨二はこの回を無失点で切り抜けて、最終回に望みを繋いだ。
 九回表、墨二最後の攻撃。富戸のマウンドには代打した杉本がそのまま登った(キ二六巻六六頁)。杉本は球が速いが、大変な癇癪持ちだった。曽根がベンチで杉本のことを「肉だんご」呼ばわりしただけで(キ二六巻六七頁)、墨二ベンチに乗り込もうとしたくらいだ(キ二六巻六八頁)。曽根はまさか聞こえるとは思っていなかったが(キ二六巻六九頁)、そりゃそうだろう。ベンチでの普通の会話がマウンドで聞こえるなんて、杉本はよほど耳がいいらしい。

 バッターはファインプレーをした九番の安井から。安井は杉本に対する丸井のヤジを真に受けてスリーバント(キ二六巻七九頁)。これが結果オーライとなって安井がノーアウトのランナーとして出塁した(キ二六巻八〇頁)。ほっといたらファールで三振だったのを、カッカしていた杉本が処理してしまったのだ。
 バッターはトップに還って慎二。丸井のヤジと球審の辛い判定にますますカッカしてきた杉本は慎二に対して0―3。ここで丸井は「打て」のサインを出した(キ二六巻八七頁)。一点ビハインドなのに思い切った作戦だ。ピッチャーはストライクが入らないのだから、普通は「待て」だろう。

 0―3から慎二が放った打球は二遊間へ。セカンドが横っ飛びで捕ったがショートは後ろにいたので二塁カバーに行けなかった。ここでなんと、ピッチャーの杉本が二塁ベースのカバーに行っている(キ二六巻八九頁)。杉本は太っているが、案外足は速いのかも知れない。普通このケースで、ピッチャーが二塁カバーには入らないだろう。
 結局二塁はセーフとなり、杉本は「しっかりたのむぜゲッツーコースをよ」とショートの石井に対して怒鳴っている(キ二六巻九〇頁)。冗談ではない。ダブルプレーコースどころか、普通ならセンター前ヒットの打球だ。セカンドが好捕したので一死は取れる可能性はあったが、とてもダブルプレーコースとは思えない。打球を止めたセカンドに感謝するわけでもなく、ただ怒鳴り散らすなんて野球人失格だ。

 このとき近藤が「やれやれーっ、負けるなおデブちゃん!」とヤジったところで(キ二六巻九〇頁)、杉本の癇癪玉が遂に爆発。杉本が墨二ベンチに突進して乱闘となった(キ二六巻九二頁)。
 今度は退場者を出さなかったが、球審は両チームを一喝。次に汚いヤジを飛ばしたりすれば、そのチームは失格とする、と宣言した(キ二六巻九四頁)。前年夏の南海戦といい、近藤が絡むと一騒動が起きる。近藤は中学野球連盟のブラックリストに載るかも知れない。

 無死一、二塁で松尾はバントをするが、二塁ランナー・安井のドジでボールを外され、松尾はなんとか当てたもののピッチャー正面のゴロとなってしまい、三塁で封殺(キ二六巻九八頁)。何度も言うようだが、バントエンドランではなくストライクバントにすれば、こんな失敗はしなくて済むのに。

 一死一、二塁で三番の途中出場の滝。次の四番が佐々木だと知って、丸井は滝に送りバントを指示した(キ二六巻一〇〇頁)。しかし滝はバントがヘタで、ファールしてしまい2ストライクと追い込まれてしまった(キ二六巻一〇四頁)。
 既に一死だし、スリーバントまではさせられないので、丸井は滝に右狙いを指示した(キ二六巻一〇四頁)。しかし引っ張るのが得意な滝は流し打ちもうまくいかず、好きに打たせてやったら、と言う近藤に対して丸井も頷かざるを得なかった(キ二六巻一〇六頁)。
 杉本の速球を振り切った滝の打球は三塁線を破り、一死満塁と、同点もしくは逆転のチャンスを迎えた(キ二六巻一一〇頁)。
 ここでバッターは、一年生の中ではもっとも期待が持てる佐々木。丸井は佐々木に強打を指示した(キ二六巻一一二頁)。
 カウント0―2から右打席の佐々木が放った打球はレフトへあわや長打コースかという当たりだったが、惜しくもファール(キ二六巻一二〇頁)。
 1―3から打って出たが、力んでしまいバックネットへのファール。ここで近藤は左打席に入るように指示した(キ二六巻一二八頁)。スイッチヒッターの佐々木は、右の方が飛ばすが、左の方がミートは確実なのだそうだ(キ二六巻一二九頁)。2ストライク後は左右の打席を変えることができないという都市伝説があるが、もちろんそんなルールはない。

 九回表、三―二と富戸が一点リード。二死満塁でカウント2―3。佐々木が打った打球はセンター前へ。センターの竹安が突っ込む。スライディングキャッチを敢行した竹安のグラブには白球があった。ダイレクトキャッチしたのだ(キ二六巻一三二頁)。
 ボールは竹安からショートの石井へ。懸命に戻る二塁ランナーの松尾。石井と松尾、どちらが早いか?
 二塁塁審の右手が高々と上がった。アウト!ダブルプレーで試合終了だ(キ二六巻一三三頁)。
 この瞬間、墨二の夏春連覇は夢となり、選抜準々決勝で姿を消した。

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