トップオフサイドライン第3回
    



 キックオフからジャパンは一気に敵陣に入り、モールを押し込んだ。モールとはプレーヤーがボールを持った
密集状態のことだ。地面にボールがある場合の密集状態のことはラックという。スクラムハーフの野島はフィー
ルドに散らばるフォワード連中の背中をポンポン押して、モールに参加させていった。

 ワールドカップ出場を賭けたアジア最終予選の参加国は日本、韓国、中華台北の三カ国。このうち、1位のみ
が予選を通過し、ワールドカップ出場権を手に入れることができる。日本がもっとも有利と言われ、事実、初戦
で最大のライバルと目されていた韓国に勝って、ワールドカップ出場切符をほぼ手中に収めていた。ところが、
もっとも弱いと思われていた中華台北が韓国にまさかの金星をあげて、日本と同じく1勝0敗に並んだ。つまり
、万が一日本が中華台北に敗れるようなことがあると、ワールドカップに出場できなくなる。

 ここでジャパンにミスが出た。せっかくモールで押し込みながらバインドが割れて、しかもロックの八木がボ
ールを前に落としてしまった。ノックオンの反則を取られ、相手ボールのスクラムになった。
 両チーム8人ずつのフォワードがガッチリとスクラムを組み、中華台北のスクラムハーフがボールを入れた。
この試合でのファースト・スクラムである。
 ジャパンのフォワードがグイッと押した。ファースト・スクラムで優位に立つことは、今後の試合展開に大き
く左右する。後退する中華台北のフォワードが崩れ、スクラムの組み直しとなった。もしこういうプレーが続く
と中華台北にはコラプシング(スクラムを故意に崩す行為)という反則を取られ、ジャパンは大きなチャンスを
得ることができる。

 スクラムは押せそうだ。自信を持ったジャパンのフォワードはさらにプレッシャーをかけようとした。野島も
相手のスクラムハーフを牽制し、ボールが出る瞬間にタックルをブチかまそうとしていた。
 スクラムはフォワードのドでかい荒くれども8人が組む。スクラムに参加しないバックスの選手たちはスクラ
ムの後方で待機する。そんな中で、唯一スクラムの範囲内にいることが許されているバックスの選手が、スクラ
ムハーフと呼ばれるポジションのプレーヤーである。
 中華台北のフォワードはスクラムを押されることを恐れ、素早くボールを出そうとした。ナンバーエイトの足
からボールが出ようとした瞬間、野島は一気に相手スクラムハーフにタックルした。
 しかしレフェリーが長い笛を吹き、野島はオフサイドの反則を取られ、中華台北にペナルティキックが与えら
れた。
 中華台北はタッチキックで大きく地域を挽回し、ジャパンは最初のチャンスを逃した。野島は機先を制しよう
と少し焦ってしまった。

 オフサイド。
 オフサイドとは、変な言い方だがラグビーでは最もポピュラーな反則であり、ラグビールールそのものと言っ
ていい。
 ラグビーのルールで、ボールを前に投げてはいけないというのはよく知られているが、それだけでなくボール
を持ったプレーヤーよりも前にいる味方のプレーヤーはプレーに参加してはいけないのだ。
 例えば、手でのパスは前方へ投げることは許されてないが、キックの場合は前方へ蹴ってもよい。
 だが、蹴ったプレーヤーよりも前方にいる味方のプレーヤーは、このボールに働きかけてはならない。
 つまり、ボールを持っているプレーヤーが常に先頭にいなければならないのだ。
 この場合、ボールを蹴ったプレーヤー自身がオフサイドラインであり、自ら蹴ったボールを追いかけて前方に
いる味方プレーヤーを追い越せば、前方にいた味方プレーヤーはオンサイドとなり、晴れてプレーに参加できる

 これがラグビールールの大原則であり、オフサイドラインというのが非常に重要となる。
 オフサイドラインの後方にいるプレーヤーがオンサイドで、プレーに参加できる権利を持っている。
 しかし、オフサイドラインより前方にいるプレーヤーはプレーに参加できないから、素早くオンサイドの位置
に戻ってプレーに参加しなければならない。
 そんなに重要なオフサイドラインも、当然のことながら目に見えるわけではなく、プレーヤーが判断してプレ
ーしなければならないのだ。
 オフサイドラインは常に動き、状況によっても変化するため、その判断は非常に難しい。場合によっては、敵
味方を含めてオフサイドラインが何本も存在することも珍しくないからだ。

 ラグビーの場合はサッカーやアメリカンフットボール、バスケットボールと違って、ボールを持っているプレ
ーヤーより前にいるプレーヤーがプレーに参加することは許されない、という大原則を忘れてはならない。
 ラグビーにおけるオフサイドとは単なる反則ではなく、プレーできない位置(オフサイド)にいるプレーヤー
はゲームを台無しにする存在であり、そのプレーヤーはさっさとプレーできる位置(オンサイド)に戻ってゲー
ムに参加しなさい、という意味なのである。
 つまりプレーヤーは、やむを得ない場合は別として、常にオフサイドラインより後ろの位置、即ちオンサイド
にいるようにしなければならない。
 野島のケースでは、スクラムにおけるスクラムハーフの特例として、ボールの位置がオフサイドラインとなっ
たが、そのボールより前に出てプレーしたため、オフサイドの反則を取られたわけだ。

 話をゲームに戻そう。
 野島のオフサイドによってペナルティキックを得た中華台北は、タッチキックで地域を大きく挽回し、マイボ
ールラインアウトでボールをがっちりキープした。
 モールを組んだ中華台北はそのままオープンに廻すだろうと、野島は予想した。
 ところが敵スクラムハーフはオープンに廻すと見せかけて、一気に野島の右横をすり抜けた。
 野島は完全にウラをかかれ、ボールはウィングまで渡り、中華台北の先制トライ。コンバージョンゴールも決
まって0−7とジャパンは早々とリードを許した。
 野島の、スクラムでの不用意なオフサイドの反則と、ディフェンスでのタックルミスによって奪われた先制点

 どちらも防げたプレーだった。
 韓国を破って意気あがる中華台北を調子付かせたらまずい。
 初キャップ試合となる野島にとって、苦いスタートのゲームとなった。

inserted by FC2 system