トップ>オフサイドライン第5回
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7点を先制されたキックオフ。しかしスタンドオフの遠藤が蹴ったキックは10mラインに届かなかった。中
華台北ボールのセンタースクラムとなる。普段の遠藤にとってみれば、考えられないミスだ。
中華台北はジャパンが負けるような相手ではない。普段の試合ならば、たとえ先制点を許しても慌てることは
ないだろう。しかし、この試合にワールドカップ出場がかかっているのだ。もし負ければ、そのチャンスは失わ
れてしまう。負ける相手ではないと思っていても、一発勝負の怖さを知っているだけに、プレッシャーから動き
が硬くなってしまう。
野島にとって、高校三年のときの地区大会決勝戦がそうだった。この年のチームは久しぶりの全国制覇も夢で
はない、と言われていた。ところが、無名の都立高に先制トライを奪われるとチームは浮き足立ち、歯車が噛み
合わずに結局は花園出場すら逃してしまった。このときの先制トライというのも、スクラムからのサイドアタッ
クに野島が対応できずに奪われたものだった。
野島はそのときの苦い思い出を彷彿させ、さらに珠美が言った言葉を思い出した。
そういえばあいつ、俺にはヘンな力が働いて、結局は不運な結果になってチームに迷惑をかけるって言ってた
っけ……。
そう考えると、俺がジャパンの選手としてプレーしているということは、ジャパンに迷惑をかけるかも知れな
い。
だが、野島はその考えを打ち消した。そんなことを考えている場合ではないのだ。今は勝つために、最善のプ
レーをしなければならない。
中華台北ボールのセンタースクラム。さっきはオフサイドを取られたので、野島のタックルはどうしても遅く
なってしまう。
スクラムから出たボールは中華台北のスタンドオフが大きく蹴りこみ、バウンドして日本陣ゴール前10mの
ナイスタッチキックとなった。野島のプレッシャーが甘かった分、余裕で蹴られたのだ。
自陣ゴール前10mの地点でのラインアウト。ここでトライを獲られることがあっては絶対にならない。いく
ら実力差があっても、前半早々に2トライも獲られれば味方は焦るし、敵は調子付いてしまう。
幸いマイボールのラインアウトだったのでフォワードはしっかりボールをキープし、野島から遠藤にパスされ
て、遠藤は大きくタッチに蹴り出した。なんとかピンチは切り抜け
た。