トップオフサイドライン第14回 

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 後半38分、73−10で大量リード。あと2分でジャパンの勝利、そしてワールドカップ出場が決まる。
 そしてついに、野島にテストマッチ初トライのチャンスが巡ってきた。
 敵陣10mライン付近のスクラムから野島がサイドアタックをかけ、スルスルッと抜け出した。
 トライが獲れる!そう思った野島だったが、目の前には敵のフルバックが待ち構えていた。
 だが、ステップを切れば充分に抜くことができる。もし捕まっても、フォローさえあれば他の選手がトライを獲ってくれるだろう。それに点差からいって、少々のワガママは許される場面である。
 よし、抜いてやる!そう思った瞬間、後ろから来たスタンドオフの遠藤が目に入った。遠藤にパスすれば完全に人数が余っているので、確実にトライが奪える。

 そして次の瞬間には、野島は無意識で遠藤にパスをしていた。

 完全にノーマークとなった遠藤は中央に回りこんで楽々とトライ。さらに差を拡げた。
 野島はトライを決めた遠藤に駆け寄り、肩を抱いて祝福した。
「やりましたね、遠藤さん。ハットトリックですよ」
「アホやな、お前は」
「え?」
「今のなんて、お前の力なら完全にトライを獲れたやないか。テストマッチでトライを獲れるラッキーな選手なんて、全国にそうはおらんぞ。そのチャンスをみすみす逃すんやからな」
「まあ、そうかも知れませんが……」
「そんな性格やからお前は、ラグビーを続けられへんのやな。もっと図々しかったら、ラグビーでも稼げるええ選手になったかも知れんのに」
「そんなことないッスよ」
「まあ、それがお前のええところやねんけどな。俺もお前とはもっと、ジャパンでハーフ団のコンビを組みたかったで」
 それは野島にとって、最高のはなむけの言葉だった。

 残り2分間、及びロスタイムの間に、野島のトライチャンスは二度とやってこなかった。
 ノーサイドの笛が鳴った。
 80−10でジャパンが圧勝、ワールドカップ出場を決めた。
 選手たちは抱き合い、勝利を分かち合った。

 野島にとっての初キャップ試合、そして引退試合は幕を閉じた。

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