トップ野球少年の郷第15回
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第一章 墨谷第二中学校 谷口キャプテン編−14

〈検証〉あがりすぎ?の墨二ナイン

 試合の解説でも書いているように、墨二は極度の緊張から初回にいきなり七失策で六点を奪われている(キ四巻一四四頁)。あがっていないのは谷口だけで、一見落ち着いているように見えるイガラシでも、五番の中野を六番とカン違いして外角高めに投げ、レフト上段の大ホームランを打たれている(キ四巻一四三頁)。どうでもいいことだがこのホームラン、少なく見積もっても一四〇mは飛んでいるように見える(キ四巻一四一頁)。清原和博がPL学園時代、甲子園で一四〇mの大アーチを放ったことがあるが、それに匹敵する。中学生が軟球をあそこまで飛ばすなんて、中野は清原以上の打者だったのか。それにテレビ解説をしていた野球評論家の杉浦(キ八巻六一頁)は、「あれが青葉ほんらいのバッティングです」とさして驚きもせずに解説しているところをみると(キ四巻一四一頁)、青葉ナインは全員清原以上のバケモノだったことになる。

 また話が逸れてしまった。元来ハニカミ屋だった谷口だけが唯一落ち着いているのも不思議な話だ。キャプテンとしての責任感から、自分がしっかりしなければいけないと言い聞かせていたのだろう。ここに谷口の驚くべき成長がある。先代のキャプテンもよくぞ谷口を選んでくれたものだ。いや、先代のキャプテンだって、谷口がここまで成長するとは考えてはいなかっただろう。それともうひとつ、このとき既に谷口は、墨谷高校進学後に披露する、「あがらない方法」を身に付けていたのかもしれない(プ四巻九二頁)。もっともそうならば、それをナインに伝授すればいいと思うのだが。

 それはともかく、谷口とイガラシを除くナインのあがり方は異常である。これを解説者の杉浦は、初めての全国大会、それにいきなりの決勝戦ではあがって当然と解説している。
 たしかにこの試合ではテレビ中継があるし、高野台球場も超満員だ(キ四巻一一三頁)。予選決勝では球場名はわからないが、高野台球場ほどの規模はないし、墨二側は超満員だったが、青葉側は地区予選なんて眼中にないのでスタンドには一人もいなかった(キ二巻一三二頁)。

 ところでこの高野台球場とはどんな球場なのだろう。中学野球の全国大会で使われているようだが、翌年から東京の地区予選決勝でも使われているところをみると(キ八巻六〇頁)、東京都にあるのだろう。しかも墨二ナインは全国大会中も合宿を張らずに自宅から学校に集合して通っているようだし、路線バスを使って球場を往復しているところをみると(キ六巻一七五頁)、結構学校から近いと思われる。球場の周りの風景も墨谷二中のある下町風景とよく似ている(キ六巻六七頁)。

 実は東京には「高野台球場」という名前の球場が実在する。高野台球場は『キャプテン』世界だけの球場ではないのだろうか。

 どうやらそうではなさそうだ。
 実在する高野台球場は練馬区の石神井公園近くにあって、墨谷二中があると思われる墨田区からは遠く離れており、とても路線バスで通える距離ではない。それに決定的に違うのが球場の規模である。実在する高野台球場は草野球用の単なるグラウンドだが、『キャプテン』世界の高野台球場はなんと内外野席が全て二層式なのだ。プロ野球の本拠地でもなかなかこんな球場はない。しかもスタンドはかなり高く、相当な観客動員数があると思われる。ちなみに日本でもっとも観客動員数が多い阪神甲子園球場は約五万人で、内外野席ともに一層式。そう考えると高野台球場は六万人収容でもおかしくはない。たかが中学野球にこれだけデラックスな球場が必要なのかと思ってしまうが、それでも超満員になるのだから、『キャプテン』世界での中学野球の人気の高さは想像を絶する。ところでこの高野台球場、二年後の地区予選決勝のあと、約一〇日後に始まった全国大会では突如、内野席と外野席が分離し、外野席のみ一層式になっている。その姿は、今はなき東京スタジアムに少し似ている。「光の球場」と呼ばれた東京スタジアムは東京オリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)の本拠地だった球場。荒川区南千住にあり、場所的には墨田区と近く、高野台球場のモデルだったのかもしれない。
 それにしても、僅か一〇日間でどんな工事をしたのだろう。それに、なぜわざわざキャパシティを減らさなければならなかったのか。いつも満員だったのに。

 またまた脱線してしまった。六万人の大観衆の前なら、墨二ナインがあれだけ緊張したのも頷ける。しかし回が進むにつれ、墨二ナインは落ち着きを取り戻していった。ナレーションではこれを「谷口の再三の注意が功を奏した」と説明しているが(キ四巻一五五頁)、雰囲気にも慣れるだろうし、いつまでも緊張しているわけではないだろう。それに三回までに九点も取られたのだから、もう緊張どころの気分ではないと思われる。

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