トップ野球少年の郷第56回
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第四章 墨谷高等学校 谷口二年生編(プレイボール 八〜一八巻)−15

E墨谷高×明善高(東京大会準々決勝)球場=明治神宮球場

 墨谷 000 000 000=0
 明善 312 110 00X=8
 勝=明善@ 負=谷口

 準々決勝は、東実を破ってきた明善との対戦。しかし墨高は準々決勝まで進出できるとは思っていなかったので明善を調べておらず、また疲労もピークに達していたので、全く歯が立たなかった。〇―八で迎えた九回表も、二死からなんとか倉橋が二塁打で出塁するが、谷口が内野ゴロに倒れて万事休す。墨高の夏は終わった。

 〈検証〉準々決勝の明善戦

 五回戦と準々決勝の間に中一日の休みがあり、墨高は練習せずに各自、自宅で休養に当てた(プ一八巻一一四頁)。もはや練習よりも、体力回復の方が重要だったのである。

 この日、丸井が谷口の家を訪ねた(プ一八巻一一五頁)。丸井の『プレイボール』初登場である。丸井と谷口は旧交を温め、丸井がお土産に持ってきたタイヤキを一緒に食べた。もっとも、谷口が一人で全部食べてしまい、丸井が食べたのは谷口の母が買ってきたタイヤキだったが……(プ一八巻一三〇頁)。このとき、丸井はタイヤキの正しい食べ方を谷口に伝授している。タイヤキは頭から食べると尾っぽまで餡子が行き渡り、最後までおいしく食べられるのだそうだ(プ一八巻一二六頁)。

 準々決勝、墨高は明善と対戦した。明善は五回戦で東実を破っている。なぜそのことがわかるのかというと、四回戦の専修館×三山のときに、東実ナインの姿を見た倉橋が「そういやこの試合の勝者か、あるいはオレたちと準々決勝であたることになるわけだからな」というセリフでわかる(プ一五巻一六四頁)。

 これまでの試合、相手を充分調べ尽くして非力を補ってきた墨高だったが、明善に関しては全く調べていなかった(プ一八巻一二四頁)。専修館を倒すことで精一杯だったのだ。これが東実相手だと、大野や中井など一度戦ったことがあるメンバーが残っていただけに、なんとかなったかも知れないが。

 明善のエースは専修館の百瀬ほどのピッチャーではなかったが(プ一八巻一三六頁)、全く知らないピッチャーだけにてこずり、墨高打線はナチュラルカーブを引っ掛けて凡退を繰り返した。
 守備でも先発の谷口が初回から明善打線につかまり、失点を重ねた。後半にはようやく明善の特徴を掴み、持ち前の粘りを発揮し始めたが、もはや時すでに遅しであった。

 九回表、墨高の最後の攻撃。〇―八で明善の一方的リード。現実の高校野球のルールなら七回以降七点差でコールドゲームであり、しかも準々決勝でもコールドゲームは適用されるから、本来なら既に墨高の七回コールド負けである。

 一番の山本、二番の太田が倒れて二死無走者。谷口が打てる状態ではなかったので倉橋がなんとか一人で一点を取ろうと三塁後方へのポテンヒット。一気に二塁まで陥れるが、一人で一点を取るのは無理だった(プ一八巻一八一頁)。

 二死二塁で四番の谷口。谷口は最後の力を振り絞り、レフトオーバーの当たりを打つが、惜しくもファール(プ一八巻一八六頁)。これで谷口も遂に力尽き、平凡な内野ゴロで試合終了(プ一八巻一八八頁)。〇―八で墨高の完敗だった。

 しかし、スタンドからは墨高に対して大きな拍手が沸き起こった(プ一八巻一八九頁)。新聞では「小さな強豪」と称えられた墨高は(プ一八巻一二二頁)、強豪に敢然と立ち向かう姿で全ての人を感動させた。
 墨高は爽やかな風のように神宮を去った。

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