トップ野球少年の郷第13回
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第一章 墨谷第二中学校 谷口キャプテン編−12

○急転直下!青葉学院との再戦決定

 全国中学校野球選手権大会は青葉学院の四連覇で幕を閉じた。
 ところが、毎朝新聞の記者が墨谷二中の取材中、地区予選決勝で青葉が一五人以上の選手起用をしたことを知り、全国中学野球連盟に連絡。その記者やカメラマンと共に谷口が連盟へ連れて行かれた。青葉の部長も連盟に呼ばれ、この規則違反が問題になり、なんと三〇日後に全国大会決勝として青葉学院と墨谷二中の再試合が決定した。

 〈検証〉再戦決定の正当性
 
 全国中学野球連盟の大田原委員長は青葉の部長に、なぜ一五人以上(しつこいようだが、マンガでは「一四人以上」になっているが実際は一五人以上)使ったのかと問いただし、部長は規則書に人数の制限を記していなかったから、と答えた。この答えに対し委員長は、中学野球は全国高校野球の沿った条件で行われていることを知っているはず、常識として規則書にうたっていなかったことぐらいわかるだろう、とたしなめた(キ四巻二八頁)。

 ところで、高校野球に「選手起用は一四人以内」などという規則はあるのだろうか

 ちなみに、現在の高校野球の甲子園大会で、一試合に出場できる選手数は一八名。だからといって「選手起用は一八人以内」などという規則があるわけではない。ベンチ入りの人数が一八人まで、と決まっているだけであって、ベンチ入りしている選手は全員試合に出場することができるのである。しかもこれは甲子園大会に限ったことであって、地方大会ではその地方によってベンチ入りの人数はまちまちだ。例えば二〇人までベンチ入りが認められている地方の大会なら、二〇人試合出場が可能だ。

 『キャプテン』世界の頃の、高校野球の甲子園大会では、ベンチ入り人数は一四人までだった。「選手起用は一四人まで」というのはそこからきているのであろう。つまり、青葉が違反しているのは、「選手を一五人以上使ったから」ではなく、「一五人以上、選手をベンチに入れているから」である。大会前には当然、ベンチ入り登録メンバーを連盟に提出しているはずである。ということは、青葉は申請していない選手をベンチに入れていということで、こちらの方がよほど大問題だ。しかし委員長はこの件に関しては咎めていない。
 それもそのはず、実は墨二もルール違反をしているのだ。

 地区予選一回戦の江田川戦で、松下がイガラシに殴りかかるシーンがあるが、このときの墨二ベンチにはどう見ても一五人以上いる(キ一巻一二六頁)。それに谷口は一五人以上使ったことには抗議しているが、ベンチ入りの人数に関しては抗議していなかった。審判団も同様に、ベンチ入りの人数に関しては言及していない。
 したがって、『キャプテン』世界(『プレイボール』もそうだが)では、現実世界とは違いベンチ入り人数には制限がなく、試合出場人数に関しては一四人以内、というルールがあるということで、今後もそのルールを前提として話を進める。

 しかしそういうルールだったとしても、「常識だから規則書でうたっていない」という委員長の論理は少々乱暴のように思える。ただ、大筋が高校野球と同じ規則で、特例として中学野球の規則がある、とも読める。その割には、球審が持っていた中学野球の規則書はずいぶん分厚かったが……(キ三巻四三頁)。
 それはともかく、人数制限問題も、規則書未記入問題もヨシとしよう。しかしいちばん問題なのは、再試合の決定方法だ。

 既に優勝が決まったあとにもかかわらずその優勝を撤回して改めて優勝決定戦を行う、という極めて重要な事項を、なんと会議も開かずに委員長の鶴の一声で決めてしまっているのだ。しかも試合は三〇日後、と日にちまで即決している(キ四巻三一頁)。
 こんなこと、常識では考えられないだろう。中学野球連盟には他には役員はいないのだろうか。女子事務員はいるのだが(キ四巻二六頁)。建物だって結構立派だ(キ四巻二三頁)。ちなみにこの決定の場にいたのは、委員長、青葉部長、谷口、記者、カメラマンの僅か五名だ。
 しかも、問題発覚から再試合決定まで僅か一日のスピード採決だ。
 毎朝新聞の記者とカメラマンが来春の選抜の取材で墨二に来て、そこで青葉のルール違反のことを知り、記者が連盟に電話で報告、谷口を連盟に連れて行く。やがて青葉の部長も来て、委員長が事情聴取を取ると、再試合を決めてしまう。当時、審判を勤めていた人物からの話も聞かずに。再試合に発展するほどのルール違反を見逃したのなら、この審判も相当重い責任を取らされると思うのだが。

 そしてこのルール違反の証拠に使われたのは、なんと墨二のスコアブックのみだった(キ四巻二五頁)。連盟に記録は残っていなかったのだろうか。いや、この試合が墨二の選抜出場選考の重要参考資料になったはずだから、当然連盟で調べているはずである。そのときに気付かなかったのだろうか。まさかスコアだけ見て、うん、強そうだから選抜に選ぼう、と安易に決めちゃったとか。

 いずれにしても、優勝を取り消して再度優勝決定戦を行うということを、あまりにも軽く見過ぎている。特に青葉の部長は酷い。「優勝旗をお返しすれば済むことだと思いますが!」とあまりにも無神経なことを言っている(キ四巻二十九頁)。盗っ人猛々しいとはこのことだろう。言うに事欠いて「返せば済む」では、事の重大さが全くわかっていない。この言葉に対して委員長は「君の気持ちはそれで済むかもしれんが、君にしたがって血と汗で勝ちとった生徒の気持ちはどうなるのかね?」とたしなめながらも(キ四巻三〇頁)、結局「同じ条件のもとで墨谷二中と再試合をなさい」と指示している(キ四巻三一頁)。委員長も部長に劣らず楽天的だ

 いかに安直だろうが、とにかく再試合が決定した。しかも決勝戦である。墨二にとっては一試合に勝っただけで日本一になれるのだから、かなりオイシイ裁定だ。ルール違反をした青葉に感謝するべきだろう。
 翌日には毎朝新聞の独占スクープで(その場には毎朝新聞の記者しかいなかったのだから、他紙が載せられるわけがない)再試合を報道した(キ四巻三五頁)。まあ、毎朝新聞社は全国中学校野球選手権大会を主催しているのだから(キ二〇巻表紙による)、別に珍しいことではないが。

 ところが、再試合が決定したあとは墨二の練習に大勢の報道陣が詰め掛けている。『キャプテン』世界では、中学野球は相当ニュースバリューのある人気スポーツのようだ(キ四巻三八頁)。このときの取材での自己紹介で丸井の映画好きが判明し(キ四巻四八頁)、ショートの高木は「村上です」となぜか大ウソをついている(キ四巻四九頁)。

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