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第五章 墨谷第二中学校 イガラシキャプテン編(キャプテン 九〜二二巻)−5

※墨谷二中×朝日高(練習試合)球場=朝日高グラウンド

 墨谷二 0?? ??? ???=1
 朝日高 ??? ??? ??X=13
  勝=菅野 負=近藤 本=松本(近藤)

 OBの丸井が朝日高との練習試合を組んでくれた。朝日高のキャプテンでエースの菅野(かんの)は最初、手加減して投げるものの、イガラシ(兄)だけには通用せず、本気で投げるもヒットを打たれた。一方の墨二の先発・近藤は先頭打者の松本にいきなりホームランを打たれ、その後もメッタ打ちに遭う。
 結局、一―一三と大敗を喫した墨二だったが、強敵との実戦経験が無かった墨二にとって、計り知れない貴重な経験となった。

〈検証〉朝日高との練習試合

 墨二が地区予選の準決勝に進出した頃、丸井が朝日高との練習試合をイガラシに持ち込んだ(キ一二巻一四一頁)。朝日高とは言うまでもなく、丸井が通っている高校である。朝日高には野球部は軟式しかないが(キ九巻一四八頁)、結構いい線を行っているそうだ。実は江田川も高校生を相手に練習試合をしているが、その高校とはわけが違うと丸井は言っている。ちなみに江田川を相手にしている高校生は、井口の球をまともに打てない(キ一二巻一四三頁)。朝日高の軟式野球部は層が厚く、二年生になったらどうにかポジションが貰えそうだと丸井が谷口に話していたが(プ一八巻一二九頁)、実際には一年の時から背番号4を着けている(キ一二巻一五三頁)。

 丸井がもっとも警戒していたのは江田川ではなく青葉だった(キ一二巻一四六頁)。江田川は守備が弱いので井口さえとらえればなんとかなるが、今の青葉は全く隙が無いという。イガラシが三回戦での青葉の試合を見たときは、倉田という佐野に勝るとも劣らない投手が投げていた(キ一二巻一四四頁)。しかし青葉の試合を全部見ている丸井によると、倉田を含めて左右計五人の投手陣を形成しているそうだ(キ一二巻一四五頁)。青葉も地区予選を二軍に任せるのはやめたらしい。

 今の青葉の強さを知って練習試合を組んだ丸井は、墨二から五キロほど先にある河川敷の朝日高グラウンドに墨二ナインを連れて行った(キ一一巻一四九頁)。
 試合は、朝日高のキャプテンでエースの菅野が「君たちの打撃が見たい」と言ったので、墨二の先攻で始まった(キ一二巻一五二頁)。

 丸井は菅野に手加減して投げるように頼んだ(キ一二巻一五三頁)。地区予選の最中だし、自信を無くさせないためだ。しかし、手加減をしてもさすがに高校生の球は重く、たちまち2アウト。しかし三番打者の久保は丸井の助けもあって(?)ライト前ヒットで出塁した(キ一二巻一六四頁)。

 四番のイガラシは初球をあわやホームランのレフトへの大ファール(キ一二巻一六八頁)。イガラシの中学生とは思えないバッティングに驚いた菅野は、手加減なしの速球をいきなり投げ込んだ。イガラシはそれを打ち返すことはできなかったが、なんとかファールチップした(キ一二巻一七〇頁)。丸井は再び手加減するように頼むが、菅野は、彼らは我々にどれだけ食い下がれるか挑んでいるように見える、と丸井を諭した(キ一二巻一七二頁)。いずれにしても、イガラシに対してだけは、手加減をしたら間違いなくやられると菅野は思った(キ一二巻一七三頁)。そしてイガラシは菅野の全力投球を見事にとらえ、サードへの内野安打で出塁した(キ一二巻一七六頁)。

 五番の近藤は、手加減した菅野の球をレフトフェンス直撃の大ファール(キ一二巻一八三頁)。近藤のパワーには驚いた菅野だったが、丸井はマグレだと言い、さらに近藤に対しては手加減しないように要請した。近藤はヘタに自信を与えるよりも、ヘコました方が成長すると丸井は言った(キ一二巻一八四頁)。つまり、近藤のためにも鼻をへし折ってくれというわけだ。

 だが、菅野の全力投球で三振に打ち取られた近藤に対して、「へへ、おもいしったか」と心の中で思っている丸井が(キ一二巻一八六頁)、近藤の成長を願っていたとはとても思えない。

 墨二の先発は近藤。しかし先頭打者の松本にいきなりセンターオーバーのホームランを打たれた(キ一二巻一九三頁)。松本は丸井に謝ったが、丸井は、近藤に対してだけは手加減する必要はありません、その方が近藤のためです、とナインに言った(キ一二巻一九四頁)。ハッキリ言って、サイテーの先輩である。
 その後も近藤はメッタ打ちに遭い、一―一三で墨二は大敗した(キ一二巻二〇〇頁)。井口の出現により成長していた近藤だったが、まだこの時点では井口の域には達していなかったと思える。

 しかし、強敵との実戦経験が無かった墨二にとって、朝日高との練習試合は計り知れない貴重な経験となった。ただでさえ、この年の墨二は試合経験に乏しい。前年からのレギュラーは四人だけで、他の選手たちは地区予選までは試合をしたことが無かった。選抜では優勝候補に挙げられていたが、これはあくまでも練習によるものだ。練習と試合では全く違う。練習でいくら良くても、試合でその力を発揮できないことはいくらでもある。

 墨二は準決勝で対戦する向島中相手には楽勝が予想されたが、決勝は青葉と江田川の勝者となっていた(キ一二巻一四三頁)。今まで弱い相手とばかり試合をしていて、いきなり強敵と当たると力を発揮できなくなるというのはよくあることだ。そういう意味で、丸井は実にいい練習試合を仕組んでくれたことになる。近藤に対する扱いは酷かったが……。

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